第14話
升「それは違うと思うぞ。もしそうなら、桜井さんがあのコンテストの会場にいなかったのはおかしくないか?しかも、俺たちを売り出せたところで、この人に何の得がある?」
藤「そ、れは…」
桜「そうだよ、フジ。それにあの頃の俺は…今も似たようなもんだけど、事務所からしたら決して“売れてる”とか“知名度がある”とか、そういう利用価値があるわけじゃない。そんな人間が拾ってきたバンドをコネで入賞させたって、フジがさっき言ったような“商売道具”として利用できるとも思えない」
藤「……………」
桜「きみたちが入賞して、今ここにいるのは、きみたちの実力だ。俺がやったことと言えば、せいぜいコンテストがあることを教えたくらいだ」
…ほしかった言葉。
ガキだと馬鹿にされても、俺が言われたかったのは“力を認める”ということ。
熱くなっていた頭が、身体が、少しずつおさまっていく。
升「それでも…ありがとうございました」
直「ありがとうございました!」
増「あっ、ありがとうございます!」
升「あのコンテストがきっかけなのは事実ですから。本当にありがとうございます」
3人がサクラに頭を下げている。
本来、真っ先にこうしなければいけないのは、俺のはずなのに。なのに…
藤「…どうも、ありがとうございます」
ふてくされたような無表情で、ぼそぼそとそう言うのが精一杯だった。
サクラは、しょうがないなぁとでも言いたげに、苦笑していた。
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