選挙

第1話

===藤視点===



ニコルが笑っている。

俺が描いた絵だ。

たいていの女性は、可愛いと言ってくれる。

あなたの純粋な心をあらわしているんですね、と。

自分ではよくわからないけど。


母は、そう思ってくれるだろうか。










「では、これより地方別に分かれての投票にうつります」



小雪のちらつく、厳寒期の都内某所。

宗教法人・輝一会の3代目教祖である藤原基央は、集会の壇上で眉間にしわを寄せていた。

べつに今行われている幹部選挙の結果がどうとか、そんな難しいことを考えているわけではない。

昨日ほとんど完徹だったので、寝不足なのだ。



輝一会は、高度経済成長期に大きくなった宗教団体である。

ベースにしているのはカトリック系のキリスト教で、現在の信者数は全国で約30万人。

特に過激な運動や、あるいは政治なんかには手を出していない。出したくもない。

まぁ、自他共に認める“そこそこ有名で人畜無害な宗教団体”という感じだ。



増「教祖様~?」

藤「ぐっ」



急に背後をとられて、お茶を喉に詰まらせてしまう。

振り向くと、昨日の徹夜仲間である升と増川がいた。



藤「何」

升「そんな不機嫌そうな顔してると、ニコルが泣くぞ?」

藤「大丈夫だろ、印刷されまくってんだから」

増「でも原稿描くのは教祖様じゃん」

藤「つーか今その呼び方やめてくれ」

増「いや、逆に今はこう呼ばないとまずいでしょ」



まぁね…。

何しろ、今は次期幹部の投票の真っ最中なのだ。



増「そういやさ、幹部って誰が交代すんだっけ?エマさんだけ?」

藤「あぁ。エマさんももう年だから、隠居したいんだってさ」

増「おばあ様の側近だったんだもんなぁ。そりゃ年だよな」

升「じゃ、やっぱり今回当選するのは1人か」

増「誰か有力候補とかいるの?」

升「おまえは朝から何を見てたんだよ。ほれっ、一覧表!」

増「…じーさん、ばーさん…見事にそればっか…」

藤「うーん…」



脳天気な会話をしながら、俺たちはいったん控え室に戻った。

投票が終わるまでには、まだまだ時間がかかりそうだし。

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