第5話 旅立ち

 朝の光が寺の庭を染めるころ、宗則は旅の準備を整えていた。

 荷物を背負い、心の中に新たな決意を抱きながら、これまでの軌跡を振り返っていた。

 幼い頃から背負ってきた運命、この寺での修行、そして試練を乗り越えたこと――

 すべてが彼を支えていた。


 白雲斎は宗則を見送りに、寺の門の前に立っていた。

 彼の目には深い慈愛と期待が込められていた。


「…宗則、お前は、大きな成長を遂げた。もう、わしの元を離れても、一人でやっていけるじゃろう」


「…師匠…?」


 宗則は、白雲斎の言葉に、驚きを隠せなかった。


「…わしの役目は、ここまでじゃ。これからは、お前自身の力で、道を切り開いていくのじゃ」


 白雲斎は、宗則に一通の書状を手渡した。


「…これは…?」


「京の都に住む、わしの旧友への紹介状じゃ。彼ならば、お前の力を必要としてくれるじゃろう」


「…京の都…ですか」


 宗則は、都の名前を聞いて、胸が高鳴るのを感じた。京は彼にとって憧れの地であり、新たな冒険の舞台でもあった。


「…そうだ。都は、魑魅魍魎が跋扈する、恐ろしい場所だ。だが、同時に、多くの才能が集まる、刺激的な場所でもある」


 白雲斎は、宗則の目をまっすぐに見つめた。


「…宗則、お前は、大きな可能性を秘めている。その力を、世のために役立てるのじゃ」


 宗則の心には決意と共に、感謝の思いが広がった。


 背中に背負った荷物の重さを感じながら、宗則は寺を後にした。

 朝の陽光が薄く差し込み、彼の前に続く道を照らしていた。


 村を出ると、広がる風景が彼の目に飛び込んできた。

 山々が連なる中、この旅が彼にどんな未来をもたらすのかはわからなかったが、心の中には確固たる決意があった。


「これからが本当の旅の始まりだ…」


 彼は心の中で呟き、しっかりとした足取りで道を進んでいった。

 背中のあざがかすかに疼くたび、それが彼の運命への導きを感じさせた。

 それは彼が陰陽師としての道を歩もうとしている証だった。


 道中、宗則は様々な風景と出会った。

 草木が茂る山道、清らかな川のせせらぎ、広がる田畑――自然はその美しさと雄大さを見せる一方で、乱世の影が色濃く残る光景も目にした。


 廃村となった村々は荒れ果てた家々が並び、人影もなく静寂に包まれていた。

 そこに暮らしていた人々は皆、戦乱の犠牲となり、去るしかなかったのだろう。

 生き残った村人たちの生活は厳しく、あばら家に身を寄せ合い、わずかな食糧を分かち合って生きていた。


 旅の途中、宗則は一軒の小屋に辿り着いた。

 そこでは老人が孫と二人きりで暮らしていた。孫は痩せ細り、怯えた表情を見せていた。

 老人は宗則に旅の無事を祈りながら、助言を与えた。


「若者よ、京に向かう道中は危険が多い。野盗や野戦の部隊に気をつけるのだぞ。」


 宗則はその言葉を胸に刻みながらも、自らの決意を曲げることなく先へ進んだ。


 ある村では、田畑が荒れ果て、村人たちは乏しい作物を必死に育てようとしていた。

 農民たちの目には疲労と諦めの色が滲んでおり、彼らの生活の厳しさがひしひしと感じられた。


 宗則は畑仕事を手伝いながら、彼らの話に耳を傾けた。彼らの多くは戦乱で家族を失い、故郷を捨てざるを得なかった人々だった。

 彼は彼らの支え合う姿に感銘を受け、これからの旅路で強く持たなければならない決意を再確認した。


「俺も彼らのように強く生き抜くんだ…」


 数日の旅を経て、宗則は次の村に辿り着いた。村の雰囲気は重く沈み、兵士に連行される村人たちや、野盗に襲われた痕跡が生々しく残っていた。

 家々は荒れ果て、村人たちは疲弊し、各々が身の安全を図るために身を潜めていた。


 ある村人から話を聞いた宗則は、野盗による荒らしが続いていることを知った。

 夜な夜な村を襲い、食料や財産を奪うばかりか、反抗する者を容赦なく傷つけていたのだった。


 村の広場に立った宗則は、曇り空の下で新たな決意を胸に秘めた。


「この村を守るために、俺ができることはなんだろう…」


 その問いかけが、宗則の心に新たな使命感を芽生えさせた。

 これからの旅路がどれほど過酷であっても、彼は守るべきもののために戦うことを決意した。


(続く)

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