影咲シオリの物語と日常
影咲シオリ
第1話 映画「セキュリティ・チェック」(2024年コンテンツを振り返る)
ネットフリックス『セキュリティ・チェック』
製作総指揮・監督/ジャウム・コレット=セラ
脚本/T・J・フィックスマン
出演/タロン・エガートン、ソフィア・カーソン、ダニエル・デッドワイラー、テオ・ロッシ
舞台となるのは、ロサンゼルス国際空港。一年で一番混雑するクリスマス・イヴの日。この日だけで乗客はなんと20万人。
主人公は空港の荷物検査係。謎の人物から指示を受ける。ある乗客の荷物チェックを見逃す、ただそれだけ。逆らえば、恋人を殺すとのこと。
主人公は必死に抵抗をするも、犯人側に空港のセキュリティがハッキングされていて、空港中のカメラ映像が犯人に筒抜け。主人公の計画はすべて見破られてしまう。そして、とうとう制裁として……
評価 ★★★☆☆ 良作!見ておいて損はない
ジャンルはサスペンス・アクション。アクション要素は控えめ。
空港の裏側、荷物検査係の仕事はこうなっているんだという『お仕事要素』が脚本にうまく反映されているので、知的好奇心も刺激される。
理不尽に脅迫され、服従させられている主人公が反撃に出るカタルシス。
観客が求めているものを与えてくれる良作だった。
ネタバレアリの感想
主人公は、かつて警官を目指したが試験に落ち、彼女を追って空港で働いている。
就職3年目にして平社員。後輩にも追い抜かれる始末。どうやら心の奥底では警官に未練があるようで、『能力はあるが、どこかやる気がない』部分を上司に見抜かれている様子だ。
彼女もそのことに気付いていて「もう一度警官試験を受けてみたら?」と薦めるが、彼女が妊娠していることもあって、今の生活が大事だと断るばかり。
事件当日、主人公もこのままではいけないと考えて、上司に出世させてほしいと直談判。友人から手荷物検査の仕事を譲ってもらう。
だが、なんということか犯人から脅迫され、イヤホンから命令を受けることになってしまう。
1度、2度、3度と犯人を出し抜こうとするが、すべて失敗。
制裁として職場の同僚である警官が殺されてしまう(表向きは心臓発作)。
友人にも恋人にも誤解を受け、孤立無援。とうとう指示通りある乗客の荷物チェックを見逃すのだが……赤外線チェックで写っていたのは何かの密輸品などではなく、どうみても爆弾のような怪しげな装置?。実は猛毒『ノヴィチェク』を使って飛行機の乗客を全員抹殺する計画だったのだ。
「それはいかーん!」
一度は脅迫に屈した主人公。しかし、人が死ぬと聞いては黙ってられねー。ここで反撃に出る。
そこからは見てのお楽しみ
お手本のようなハリウッド脚本(誉めてますよ)。
共感しやすい主人公の人となり、序盤の理不尽な抑圧、主人公の再起から逆転。
サブキャラの活躍、序盤から映される監禁されている謎の人物。
必要な要素が過不足なく配置されている。
予想よりも早く犯人(ボス)が登場するのも、脚本セオリーとしてグッド。
「謎の犯人の指示」というコンセプトは大事だが、敵の人間性が明らかになってこそ「主人公と敵の対立構造」に観客は引き込まれていく。
主人公と犯人(ボス)をいつ直接接触させるかは、脚本家をいつも悩ませるところだ。
本作、100人中99人が名作アクション映画「ダイ・ハード」を連想することだろう。
ダイハードのようなアクション要素は少ないが、準備万端、完璧な計画を用意した犯人グループの計画を孤立無援の主人公がぶっ壊すというカタルシスが共通する。
そこで、今日の思索のメインテーマは「悪役(
「ダイハード」の悪役といえば、そうハンス・グルーバーだ。
私は、昔はアラン・リックマンが演じたアイツと呼んでいたけど、いつのまにか「ハンス・グルーバー」で通じるようになった。名悪役として語られる機会が多かったからだろう。
アクション映画の悪役はなぜ魅力的でないといけないのか。
ソレは傑作といえる作品とは何かの答えにもつながる。
悪役が魅力的は作品は、何度も見返したくなる。リピート率が違うのだ。
とてもよい作品だが、もう一度見てみようという気が起こらない、そういったものもある。一方で、何度も繰り返してみてしまう作品もある(私の場合は、例えば『天空の城ラピュタ』や『ダイ・ハード』など)。
中毒性をいかにして生むか、その全容は私には分からないが、魅力的な悪役がそのひとつの要素だと思う。そして、その悪役は主人公との相互作用でこそ輝くのだ。
本作の悪役がハンス・グルーバーに匹敵する悪役とまではいえないが、見習うべきは彼が直接主人公と対峙することだ。
計画がうまくいかないときこそ、人の本性が現れる。作られた仮面の下を主人公に晒すその瞬間にドラマが生まれる。本作の犯人は理知的な様子を見せるが、主人公を見くびっていて、簡単にコントロールできると思っている。そのための準備も周到だ。しかし、主人公の本質にある正義感に気付くことは無い。何度か外れたレールを元に戻そうと試みるが、主人公が完全な反撃に出ると、ただの小悪党に成り下がってしまう。
もし、あなたが生み出した悪役が、どんな天才犯罪者で、どんな完璧な計画を生み出す頭脳派であっても、何らかの理由を付けて主人公と直接対峙する機会を作ろう。
これに失敗している作品が(名作といわれるものでも)わりとある。
ポッと出のラスボスに対して、読者は感情を揺さぶられないし、主人公との因縁も実感のないものになってしまう。
もちろんその塩梅が難しいのだけれど。
本作に足りないもの。脚本は実にキレイにまとまっていると思う。
何を足せばいい?と尋ねられれば答えは「過剰さ」だろうか。
頭にこびりついて離れない、思わず真似してしまう、そういう要素がなかった。
最近は淡白なほうが受けるのかもしれないけど。
敵役が謎のままストーリーが進む作品の例として
漫画「20世紀少年」 映画「SAW」
名悪役の例として
映画「レオン」スタンフィールド
※思いつくたびに書き足していきます
※「ドラゴンボール」ナメック星編について前半の主人公はベジータとみるべきだろう。
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