闇落ち令嬢に転生したけど、フラグはブチ折って幸せに過ごします ~呪われた攻略キャラに、思ったより執着されているかも?~
shiryu
第1話 転生の気づき
(――健康に、生まれたかった……)
私、リオネ・アンティラが高熱を出してベッドの中でそう思った。
別に健康のはずなのに、この身体では……この身体では?
その瞬間、前世の記憶が夢を見るかのように頭の中に思い浮かんだ。
日本で生まれた私は子供の頃から不治の病にかかっていて、満足に運動もできなかった。
学校にもほとんど行けず、友達もできずに病院の一室で一人過ごす生活を送っていた。
二十歳になる前に体調が急変して、ベッドの上からずっと動けなくなった。
ベッドに横たわって窓の外を見る生活にも飽きた。
窓の外から声が聞こえると、自分の不健康な身体を呪いたくなる。
だからいつも窓を閉めてもらっていた。
両親は優しくて、私のために座ったまま楽しめるゲームや本をいっぱい準備してくれた。
でも、私は健康で外で動きたかった。
最期まで私は満足に走ることもできず、遊ぶこともできず。
そのまま静かに息を引き取った――。
「――で、私は生まれ変わったということね。しかもゲームの世界に」
高熱が引いた次の日、私は部屋にある全身鏡を見ながらそう呟いた。
黒髪に赤い瞳で可愛らしい顔立ち、十六年間もこの顔だったのになんだか見慣れない気持ちになる。
ゲームではこの容姿は見たことがないけど、名前は聞き覚えがあった。
リオネ・アンティラ、というのが私の名前。
この名前は、『異世界で君と魅惑の学園生活を』という乙女ゲームの、ラスボスになる令嬢の名前だ。
アンティラ辺境伯家の婚外子として生まれたリオネは、十五歳までは平民として孤児院で生活していた。
十五歳の時に魔法の才能に目覚めて、リオネがアンティラ辺境伯家の当主が他所で作った子供だということがわかった。
魔法は貴族しか使えないことが多く、平民が使えるのは稀だ。
私は平民として覚醒したタイプではなく、ただ血筋が良かっただけだった。
しかも四大属性の全てに適性があるという才能だったから、辺境伯家の当主が私を使えると思って引き取ったのだ。
平民から貴族令嬢になってハッピー……かと思いきや。
辺境伯夫人とその娘からはとても嫌われて、屋敷では使用人からも無視されて虐められている。
高熱が出た昨日もほとんど看病されなかったわね。
「よく生き残った……と思ったけど、前世では昨日くらいの高熱は当たり前だったわね」
孤児院にいる頃から私は動くのが好きだったけど、前世のことがあって無意識に遊び回っていたのかしら。
「辺境伯家に来てから一年経って、今は十六歳。確かリオネのこの後は……」
味方もいない辺境伯家で過ごした後、魔法学園に入学する。
というか、もうすでに入学しているわね。
それがこのゲームの舞台の魔法学園で、リオネはゲーム主人公のアリエスと同学年で入学する。
アリエスは転入生だったから、まだ入学していないけど。
確か半年以上たってから入学するんだったかな。
でもリオネは主人公のアリエスと絡むことなく、魔法学園の生活を始める。
ゲームの中のリオネは辺境伯家から離れて寮生活をし始めて、最初は学園生活に馴染めずにいた。
でも数カ月後には少しずつ馴染めてきて、友達も数人ほどできる。
そしてある貴族令息に好意を持ち、その人とも恋人関係になれて順風満帆な学園生活を送っている――はずだった。
しかし、その全てが幻想だったのだ。
仲良くしてくれていた友達の令嬢は、義姉ヘランの取り巻きだった。
恋人だった貴族令息も、義姉ヘランの婚約者。
全てヘランが作り上げた幻想の友達と恋人であった。
数カ月ほど仲良くしてくれていた友達が、ヘランと共にリオネを侮蔑する。
さらには恋人だった人にも「一緒にいるのが苦痛だった」とまで言われて、リオネは絶望した。
その瞬間――彼女は、闇魔法の才能を開花させた。
四大魔法の火、水、地、風とは異なる属性魔法。
闇魔法はとても希少で使う者がとても限られる。
それから三年間、リオネは行方不明になる。
学園にも顔を出さず、辺境伯家にもいない。
誰もが死んだと思っていたのだが……リオネは隠れて生きていて、闇魔法を習得していた。
そして闇落ちをして帰ってきたリオネが、辺境伯領を滅ぼすのだ。
辺境伯領を魔物が住む土地として、そこにリオネがラスボスとして君臨する。
そんなリオネを光魔法に目覚めた主人公が、攻略対象の男性達と一緒に倒しに行く。
それが『異世界で君と魅惑の学園生活を』というゲームの、リオネのキャラ設定とバックストーリーだ。
「……リオネ、不憫すぎじゃない?」
思わず言ってしまった。
いや、なんで?
このゲーム、略して『キミワク』はよくある乙女ゲームだけど、ラスボスとなるリオネが不憫すぎてしょうがない。
ラスボスにそんなストーリーが必要なのかわからないレベルだ。
まあ闇落ちしてラスボスになる、というのはよくあるストーリーかもしれないけど。
私もこのまま前世の記憶が戻らなかったら、ゲームの中のリオネと同じ道を辿っていたかもしれない。
「でも、ここで前世のことを思い出したのは大きいわ」
幸いにもリオネには魔法の才能がある。
四大属性全てを使えるのに加えて、闇魔法すら使えるのだ。
ラスボスとして君臨するキャラクターだから、それくらい才能があって当たり前なのかもしれない。
でも私は闇落ちラスボスになんてならない。
この『キミワク』のストーリーはラスボスを倒さなくても、エンディングを迎えることができる。
ラスボス討伐はエンディング後のやり込み要素のようなものだ。
「やり込み要素で闇落ちされるキャラになった私としては、とても迷惑なストーリーね」
どこのゲーム会社か知らないけど、転生した私の身になってほしいわ。
……いや、そんなの無理だろうけど。
でもゲームのやり込み要素を崩してしまうくらいのことは、許してほしい。
私も破滅したくないので。
さて、まずやることは……。
「運動よ! 運動したい! 運動!」
前世の記憶を取り戻してから、私は高熱でずっと寝込んでいた。
リオネの身体はとても健康で動き回っても全く問題がない。
だからまずは運動したい!
私は屋敷の裏庭に移動して、いろいろと運動した。
「あはは! 走れる! ジャンプできる! 何回も! 木登りも楽しいわ!」
貴族令嬢だったらまずはしないことを、ずっとし続けた。
幸いにも朝早くということもあって、使用人すらまだ働いていない時間。
誰にも見られることなく運動をし続けられた。
「はぁ、最高ね……!」
一通り遊び終わり、体力も尽きてきたので一度部屋に戻って寝転がった。
体力が尽きて汗をかくほど運動をしたのは、生まれて初めてだ。
前世では体力が尽きるほど動いたら、そのまま集中治療室に運ばれるくらいだったから。
ベッドに倒れこむのも気持ちがいい。
ベッドって疲れを取るためにあるものだったのね。
私はこの上でずっと生活していたから、忘れていたわ。
はぁ、このまま眠りそう……と思っていたのに。
バンッ、と大きな音を立てて私の部屋のドアが開かれた。
「リオネ様! いつまで寝ているんですか、起きてください!」
入ってきたのはメイド、どうやら怒っているようだ。
そういえばリオネは使用人にも舐められているって設定だったわね。
私の記憶でも、メイド達に陰で笑われたり、不遜な態度を取られたりしていた。
今も、本来なら辺境伯家の令嬢の部屋に無断で入ってくるなどありえない。
それを許しているのが、今の現状だ。
さて、どうしましょう。
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