独身オジサンの営む珈琲店“コルサージュ”には、ハーフ風の押しかけ通い美少女がいる
茉莉鵶
第1章 独身オジサン、モテ期到来
第1話 独身オジサン、謎のハーフ風美少女と出会う
──カランカランッ…
「いらっしゃいませ。」
ここは街中で営み始めて二十年、ひっそりと佇む珈琲店“コルサージュ”。今年で、珈琲を淹れ始めて三十年、人生を歩み始めて四十五年を迎える僕は、常連の若者たちからは、独身オジサンやオジサンと呼ばれる店主で、名前は
独身オジサンという呼び名の通りで、四十五にもなるのに、未だに嫁さんも彼女すらも居ない。まぁ、今までにも良い話は決してなかった訳ではないのだが、その全てにおいてイマイチ…色々とピンと来なかっただけだ。
もしも、僕の身体をピンとさせる程の出会いがあれば、例えどんな相手であろうが、こちらからお付き合いを申し込もうという意気込みはある。
「こんにちはー!!オジサーン!!」
店の入り口のドアにベルが付いていて、開くたびに音が鳴る為、それに合わせて僕は挨拶を行う。洗い物をしていて、初めは誰が来たか分からなかったが、声で誰か分かった。
──コトッ…
──トクトクトクトクッ…
「今日は、来るの早かったな?」
──コトッ…
ここ何年かの常連で、私立の女子高校生の
「なんかー。天気悪くなりそうだからー?急いで来ましたー。」
「あー、そういや…なんか外、暗い気もするな。」
「もー!!明日、火曜日なのに午後から大雨だよー?折角のオジサンのお休みなのにねー。」
僕の店の定休日は、以前は水曜日だけだったのだが、昨今の働き方改革の流れに乗って、今年から火曜日と水曜日ということに決めたのだ。それにしても、明日の天気が雨とは僕も聞いていなかった。
TVは夕食時から寝る前くらいしか僕は見ない為、天気予報などは前日の寝る前の情報から更新がない。しかも、店の営業時間中である十一時から十八時の間は、スマホを触っている暇がない為、その日の時事的な情報を得るには、常連さんたちが頼りになってしまう。
「あ!!そうだー!!オジサーン?明日、和佳奈とデートしよー?」
「はぁ!?僕と和佳奈ちゃんがデートだって?!」
「うんっ!!そうだよー?最後はぁ…和佳奈とぉ…。ラブホにねぇー?恋人繋ぎでねぇ…インしてぇー?」
はぁ…。また和佳奈ちゃんの僕との妄想デート話が始まった。店内に僕と二人きりになる時を狙って、和佳奈はこんな事を僕に向かって平然と言ってくるのだ。
「まだ、和佳奈ちゃん…未成年だろ?僕、逮捕されても良いのか?」
「もー!!オジサン真面目すぎだからー!!」
相手は常連さんなので、突き放したり無碍にはしたくはないので、あまり強く言えないのがもどかしい。それに、これまでの和佳奈ちゃんの言動で、僕の身体がピンと来たことは一度もないので、勿体無い気もするが違うのだろう。
──ゴトッ…
そんなお客さんの相手を僕はしながら、普段通りカウンターテーブルの上へと、少し重厚感のある白い琺瑯製のドリップポットを置いた。
何と言っても、あくまで僕の店は珈琲店なのでドリップ方法も、布製のフィルターを用いたネルドリップという抽出方式である為、抽出する度ネルを綺麗に洗わなければならず、使用後のネルの保管方法にも手が掛かる。しかし、珈琲の風味を左右するコーヒーオイルを抽出できるドリップ方式の為、多少手は掛かるのだが、僕はネルドリップ方式を採用しているのだ。
──カチャッ…
──カンカンッ…
手際良く僕は、ドリップポットへとステンレス製の輪のような器具に通したネルを被せて張ると、ホーロー製のキャニスターから粗挽きのコーヒー粉を、木製の計量スプーンで量るとそこへ何杯か盛った。
「そういえば、今日…お客さん少ないかもな。」
「そうなんだー?!和佳奈、来て良かった感じー?」
──カッチンッ…
ステンレス製の電気ドリップケトルが湧いたので、僕はその取手を右手に持ち底面に左手を添え、ネルの上に盛られたコーヒー粉目掛け、お湯を内側から外側へ向かって、のの字を描くように一定量を意識して注いでいく。外側まで来たら一度注ぐのを止めて、粉の膨らみが治まるのを少し待ってから、再度内側から注ぐのを繰り返すのだ。
──ジョォォォォッ…ジョォォォォッ…
──ジョボジョボジョボジョボ…
「ああ、そうだな…いつも助かるよ。それで、珈琲の大カップで良かったよな?」
お湯をネルへと注ぐ事で抽出された珈琲が、そのネルを伝ってドリップポットへと、音を立てながら流れ落ちていく。その瞬間が、僕は一番好きかもしれない。何回同じ事をやっても、様々な複合的な要因によって、その状況は毎回違う為、飽きないのだ。
次の日────
前日、常連の和佳奈ちゃんが言った通り、午前中はどんよりとした曇天で、午後になると急にザンザン降りの大雨となった。
定休日の火曜日ではあるのだが、珈琲店“コルサージュ”の名物として、ドライフルーツ入りのパウンドケーキと、硬めのプリンと、ツナとタマゴのサンドウイッチがあり、その仕込みを火曜日と水曜日で行っていたのだ。なので、火曜日にはパウンドケーキとサンドウイッチ用のパンの仕込みと焼き上げを、水曜日には硬めのプリンの仕込みと蒸し焼きからの冷ましを、繰り返し一人で行っていて余念がない。
だから、定休日であって定休日でないのが実情で、その為ご縁があって恋愛をしたとしても、相手からの理解が得られず長続きしなかったのが、独身オジサンのことの真相だ。
──ピィィィィッ…
──ガチャッ…
店内の壁面に設置されたガスオーブンのタイマーのブザーが鳴ったので、僕はガスオーブンのドアを開けた。すると焼けたパウンドケーキの良い匂いが、店内へと充満し始める。パウンドケーキは一度に四台焼ける為、二回転程焼いておけば、数日は持つ計算だ。それに、パウンドケーキの特性上少し冷ましてからでないと型から抜けない為、焼き上がった後はパンを仕込んで焼いて、その間にパウンドケーキの仕込みを行う流れになる。
「ん…?」
カウンターテーブルの手前にある作業台の上へと、僕はガスオーブンから焼けたパウンドケーキを取り出して、並べながら置いていた時だった。
ふと、店の外へ目をやると、今日はお客さんの来る筈のない店の軒先に、人影のようなものが目に飛び込んできた。慌てて、カウンターから客席側まで出た僕は、そこから外を目を凝らしてよく見ると、軒先でずぶ濡れの制服姿のハーフ風美少女が震えていたのだ。
──ガチンッ…ガチンッ…
──ガチャッ…
──カランカランッ…
見かねた僕は、施錠されている店の入り口の鍵を開けると、店の入り口のドアを躊躇せず開けた。
「風邪引いちゃうよ!!ほら!!店の中入って!!」
──パサッ…
「あ…。ありがとう…。」
無意識のうちに店から飛び出た僕は、目の前で震えているびしょ濡れの美少女を、とりあえず店内にあったバスタオルでそっと包むと、ゆっくりと店内へと招き入れた。この時僕は、美少女へと触れた瞬間…何故か知らないがピンと来てしまったのだった。
「お邪魔します…。」
──ガッチンッ…
──カランカランッ…
「ちょっと、ゴメンね?今日、お店休みだから…鍵閉めるからね?」
──ガチンッ…ガチンッ…
どうして、僕の身体がピンと来たのか、その理由が全くもって分からなかった。本当にピンと来る相手が居たなんて、まさか僕自身思ってもいなかったのだから。
「あ…。お休みだったんですね…。」
「え…?ああ、それより君!!風邪ひいちゃうから、僕の自宅のお風呂貸してあげるから、身体温めなさい!!」
「お風呂…お借りしても、良いんですか?!」
店舗に自宅が併設されている構造の為、自宅へ通じるドアから行き来が可能なのだ。その為、美少女を連れて僕の自宅のお風呂場まで、案内してあげることになった。
しかし、僕の家には女性物の着替えなどは勿論ない為、美少女が着ていたものが乾くまでの間、申し訳ないが、僕の部屋着や下着などを貸すことになった。ただ、そんなことよりも、僕の頭の中は美少女に対する疑問点でいっぱいだった。
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