悪人の僕の望まぬ女神との異世界転生。

EXPLOSION999

女神と極悪人の僕

第1話 大悪党と女神

「ん?ああ、ううん。」


寝ぼけた僕の声が妙に響く。

あれ?僕は昨日どこで寝たんだ?

そんな微かな疑問を頭に浮かべながら、眼を開く。いつもならしばらくはショボショボしてるそれも、今日だけは一瞬で周りの風景を捉えた。


その部屋は純白の神殿だった。

きっと、古代ローマなんかにあるであろう大理石の神殿というのは本来こういう姿をしてるんだろう。……まあ、二回ほど壊したけど……。

というか。僕は何故ここにいるんだ?いつも色々なところで寝る事はあるが、神殿での目覚めは初めてのことだった。

その瞬間、綺麗な高い声が耳を打つ。


「おはようございます。と言っても、ここには時間の概念があるわけではないのですが。」


例えるならば、小鳥のさえずり、川のせせらぎ。耳に滑り込むように響く滑らかな声。まともな教育を受けたことのない僕では到底言い表せないほどの、綺麗としか言いようのない声音が響き渡る。

身を委ねたくなるようなその声に、普段とは比較にならないほど緩やかに僕の首は声のした方向を向く。


そこに居たのは女神だった。

色素という色素が抜けきった白い髪は光を受けてキラキラと輝き、流れるように胸ほどまで降ろされている。全ての色の籠められた極彩色の瞳がこちらを覗き込んでくる。生きている者では有り得ない完成された美貌。何処か作り物めいているのに、ここまで生命力を感じさせるものに、僕は出会ったことがなかった。生命、神秘、美貌。その言葉を具現化したとしか言いようのないような存在。ともすれば、巨匠の描いた名画のようなその美しさに、僕は通常なら真逆であろう感想を抱いた。


気持ち悪い。


それは、眼の前の彼女に対する感想ではない。

こんな美しいものを見ている自分に対する嫌悪からの気持ちだった。


そんな僕に向けて、女神は再び口を開いた。


「佐藤 あまねさん。ようこそ死後の世界へ。あなたは今日、残念ながら死んでしまったのです。」


心からの慈しみが籠められたその言葉を僕…佐藤 あまねはその疑問を口にする。


「残念?めでたいの間違いじゃないんですか?」


響いた言葉神殿内を駆け巡る。神々しい神殿もまた、眼の前の女神のように完成され尽くしている。


ああ、やっぱりこの神秘さは僕にだって…


「僕は世界一の大悪党ですよ。死んで良かったじゃないですか。」


その声は不思議なほどすんなりと……僕の口から出た。

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2025年1月5日 23:00

悪人の僕の望まぬ女神との異世界転生。 EXPLOSION999 @EXPLOSIONmegumin

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