二、花咲く友情

 春の温かな陽光が差し込む三月三日の昼下がり、私は大学の後輩から依頼された小説と漫画原稿を完成させた。メールで送信すると、懐かしい友人からの連絡が入る。

「大型連休、関西旅行へ行かない?」

 大学を中退した高木さんからだった。一緒に過ごした楽しい時間や笑い声が蘇る。彼女とは漫画アニメ研究部に在籍していた仲なので、どこへ行きたいか察しがついた。

「うん、行く」

 即答し、私は旅費を稼ぐためにバイトを入れた。


 四月三十日。動きやすいフィット感ある黒のスキニーパンツにシンプルな白のブラウスを合わせた私は、名古屋で高木さんと合流。彼女はデニムのハイウエストパンツに明るい色合いのトレーナーというコーディネートだった。

「久しぶり! 元気だった?」

 高木さんの笑顔に、私も微笑み返す。

「うん、なんとかね」

 再会に心が弾む一方、学生気分には戻れない気がした。

 近鉄電車に乗車し、なんば駅から大阪入り。日本橋オタロードでは目当ての店舗を巡りながら懐かしさに浸り、アニメや漫画のグッズについて語り合った。次に活気あふれる戎橋筋商店街へ向かうと、人々の喧騒に圧倒されながらも私の心は躍った。

「食い倒れツアーのはじまりだ」高木さんが嬉々と声を上げた。

 まずは大阪名物のたこ焼きを購入する。熱々のたこ焼きを一口頬張ると、外はカリッと香ばしく、中はトロっとした食感が口いっぱいに広がり、おいしさから自然と笑顔になる。次にソースの匂いに誘われてお好み焼き屋へ入店し、生地と具材を混ぜ合わせて焼くシンプルなスタイルを味わう。

「これが本場の味かぁ」

 高木さんの感嘆する声が心地よかった。

 心斎橋筋商店街を歩きながら、「長すぎじゃね?」高木さんは少し息切れしていた。私は笑って「残り半分だよ」と答える。

 阪急百貨店前では、美しいステンドグラスに目を奪われた。阪急三番街南館一階の紀伊國屋書店横を通ると、ブリティッシュグリーンの外観をした店舗が視界に入る。

 開いた扉からは心地よい香りとともにリラックスした雰囲気が漂っていた。背の高い男性スタッフが颯爽と歩いていく姿が見え、黒いパンツに白シャツ、首にスカーフを巻いた女性スタッフは、リクライニングチェアに寝そべる客の足に向き合って座っていた。

「あれがフットケアサロンかな」

 私が指さすと、高木さんは興味津々で頷く。「へえ、面白そう」彼女も目を輝かせる。

 魅力的な光景からサロン名を記憶し、私達は横断歩道を渡って西へ向かう。

 梅田スカイビルに到着し、エレベーターで屋上へ向かう。強風に髪を乱されながら空中庭園から街を一望する。夕暮れ時、西空は鮮やかな朱色に染まり、東からは濃紺の闇が迫っていた。頭上には星が瞬き、地上には無数の光が灯り出している。

 光の景色を見つめながら、自分が世界の中心に立っているような気分になる。しかし、手を伸ばしても輝きを掴めない現実が胸中に残った。

 翌日、高木さんと梅田から阪神線に乗り、神戸三宮駅で下車した。高架線下の和やかな商店街を抜けて南京街へ向かう。香ばしい中華料理の香り漂う賑やかな通りでは、フカヒレバーガーや焼き小籠包を食べ歩きながら楽しんだ。

「異人館通りに行ってみない?」提案すると、高木さんは「坂道を歩く体力がない」と弱音を吐く。その言葉に少し笑ってしまった。「じゃあ、次回ね」と言いながら遠くから風見鶏の館を眺めることにした。

 代わりに赤い神戸ポートタワーやハーバーランドを巡り、新緑眩しい五月の風を感じながら散策した。

「もう少し計画を練ればよかったかも」

 帰りの電車内で話すと、高木さんは「いや、本場のたこ焼きもお好み焼きも食べられて大満足だったよ」笑顔で返してくれた。でも、どこか寂しさが混じっている気がする自分がいた。

 お土産に買ったリクローおじさんのチーズケーキを、二人で頬張りながら笑顔を交わす。窓に映る自分の顔が目に留まり、どこか寂しげに見える。息を吐くと、車窓の向こうに夕暮れが滲みだし、柔らかな光が差し込んできた。

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