第3話
彼に好かれたい一心で、私は性格を偽ることを決めた。
わがままな性格を必死に隠して、人を傷つけることをやめた。彼の幼なじみの彼女のことを貶めるのをやめて、信用してもらう為に彼女の一番の親友になった。
おしとやかに、謙虚に、自分を隠して。
変わった私に、彼は最初は疑っていたけど、だんだんと受け入れてくれた。
そうして大学4年になった時、幼なじみのその彼女は私を信用しきって、虎視眈々と彼を狙っている私に、あることを相談してきた。
『私ね…実は婚約者がいて』
家が裕福で、昔から結婚相手を決められていたという彼女。
その言葉を聞いて、私は内心でにやりと笑った。
相変わらず想いあっていた二人の、その想いを利用した。彼女にはその婚約者と結婚するよう仕向け、それで大きなショックを受けていた彼に手を差し伸べた。
『前、惇弥くんの事が好きだって話したこと…覚えてる?』
『……今更なんだよ』
『辛いんじゃないの? 絵菜が他の男と結婚するの』
『……』
『私だったら隣にいてあげられるよ』
寂しさを埋めてあげられる。
『契約、しない?』
『契約…?』
・私はあなたの理想の妻になる。
・あなたが辛い時は励ますし、泣きたい時は隣にいる。
・あなたが彼女を想うことを止めないし、浮気も何でも黙認する。
・その代わり、嘘でも代わりでもいいから、家にいる間は、私を全力で愛して欲しい。
『私は淳弥くんが隣にいればそれでいいの。淳弥くんの行動も制限しない…。良い条件だと思わない?』
『……』
最初は受け入れてもらえなかったけど、彼女と婚約者が仲良くなっていくのを見てだんだんと壊れていった彼は、最終的にそれを受け入れた。
彼と結婚することになったと告げると、絵菜はひどく動揺した。
『な、なんで…』
『大丈夫。全部二人のためだから』
『私たちの…?』
『そう。惇弥くんも絵菜と同じで、ご両親に早く結婚しろって言われてるんだって』
『……』
『でも、絵菜は他の人と惇弥くんが結婚するの嫌でしょ? だから私が結婚して、二人が好きなだけ会えるようにするの』
全部、絵菜と惇弥くんのためだよ、とにっこり笑う。
涙ぐんだ彼女は、そっか…と頷いて、でもと不安そうに私を見た。
『碧ちゃんは、それでいいの…?』
笑みが取れそうになるのを、必死に我慢した。
『うん。私、好きな人とかできないし。二人のこと応援してるから!』
全てを嘘で塗り固めて、そう言った私に、絵菜はほっと安心しきったような表情で息を吐いた。
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