日曜日の朝、俺たちは大学の近くでレンタカーをし、ハルトの運転でドライブをスタートした。相変わらず女子2人は藍染さんにメロメロで。普段の藍染さんはショート丈のスカートやパンツだが、今日は初めて見るワンピース姿で、そのギャップにやられたのだろう。

「カノンちゃんが今日も可愛い…」

「そんなことないけど…ありがとう!でも2人の方が可愛いと思うよ?私、そういう服着たことないから似合うのが羨ましいっ」

「…ねぇダイ、悩殺ってこういうことを言うのね」

「ふはっ、なんだよそれ。ところでさ、藍染さんは免許持ってたりするの?ハルトとナホは持ってんだけど…」

「免許持ってるよ!たまに運転もするしっ」

 運転までできるとは意外だった。自分で運転する必要なんてないだろうし、何より過保護すぎるあの宇瑠間さんが嫌がりそう。5人中3人が免許持ちという事が分かったので、今日はこの3人でドライブをしてくれるようだ。

「もうすぐサービスエリア着くぞ~」

「やった!結構おなか減ってきた…」

 ここで軽く昼食をとって、高速を降りた先でお目当てのカフェに行くことになっている。サービスエリアには小さなお店が色々と出ていて、各々食べたいものが異なることから個人行動となった。食の好みが合う俺と藍染さんは、結局同じお店に行くことになった。

「…私こうやって友達とどっか行くの初めてでさ、どうすればいいか分からなかったから、白井君と同じでちょっと安心した」

「そんなに緊張しなくていいのに!俺もほかの3人も、藍染さんに頼りにされたら喜んで着いていくって」

 今日は朝から少々緊張していたらしい。俺と2人になった後もまだ若干ぎこちなかったが、美味しそうな食べ物を手にして、少し気が和らいだようだ。集合場所まで戻ろうと歩いていると、少し離れた所から、1人の女性に声を掛けられた。

「…あら、藍染さん?」

 俺はその女性に見覚えがあったが、俺より遥かに彼女のことを覚えているであろう藍染さんが、何故か思い出せていなかった。

「えっと、」

「…藍染さん、この前の雑誌の編集の人じゃない?」

「あっ…ありがとっ。紫乃さん!すみません今日コンタクトしてなくて気づくの遅くなっちゃいました、」

 決して忘れていたわけではないようだ。俺が忘れていた名前を憶えていたくらいだし、気のせいだろうと思った。でも、その時から俺の中に少しずつ疑問が出てきていた。

「ごめんなさい今日お休みでしたか?あっ、君前の打ち合わせの時も…?」

「はい、白井です」

「そうだ白井君だっ!お2人でお出かけですか?」

「今日は知り合い数人で少し遠出をしていまして。まさかこんなところで紫乃さんにお会いするなんて…」

「私もびっくりです!…すみませんオフの時に話しかけてしまって。では、楽しんできてくださいね?」

「全然大丈夫ですよ!ありがとうございます」

 紫乃さんは仕事の途中だったようで、カメラマンらしき人たちに合流しにいっていた。

「ありがとう白井君」

「あ、ううん大丈夫だよ。気を抜いている時に知り合いに会ったらびっくりするよね~」

「そうだよね…戻ろっか?」

 少しの沈黙の後、ぎこちなかった表情の藍染さんはいつもの笑顔に戻った。集合場所に戻る彼女の背中が俺にはひどく小さく見えた。まるで何かを失ったかのように、何かが折れてしまったように。

「2人とも早く~!食べるよ~」

「全く同じもの持ってんの?」

「白井君と食べ物の好みが似てるみたいなの」

「…またダイに抜け駆けされた気分なんだけど」

「なんでだよ」

 その後、特に藍染さんにおかしな点はなく、終始本当に楽しそうだった。緊張なんてとっくのとっくに消え去っていたみたいで、会話に入る数も増えていた。やっぱり、俺が感じたさっきの違和感は気のせいだったんだ。楽しかったからなのか、この日藍染さんが探るような目で俺を見ていたことに気づかなかった。

「今日は誘ってくれてありがとう!すっごい楽しかった!」

「俺らも楽しかったよ!じゃあまた学校でな~」

 夕方大学の方面まで戻ってきた俺たちは、朝と同じ場所で解散した。

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