天気のいい日に干したぬいぐるみのにおいの色



「おは~!」

「おはよ」

「なぁこれ見てよ、昨日地元の奴らと行ってきたんだけどさ、もうめちゃくちゃ綺麗なんだよ!朝と夜で色が全然違っててさ。凄くね?」

「えぇ、めっちゃ綺麗じゃん!私達も連れて行ってよっ」

「おうおう。何か、季節によって色も変わるらしいし冬になったら行こうぜ!ダイも行くだろ?」

「行く行く。けどお前冬になる頃には忘れてるだろ?」

「んなことねぇわ!」

 昨日遊びに行った場所の良さを熱弁している黒岩ハルト。大学に入って約2か月。俺、白井ダイキは、この賑やかなクラスメイトのハルトと、蒼井ナホ、緑川ユウカの4人で大学での時間を過ごすことが多くなっていた。とくになにかきっかけがあったわけではないが、ふとした時に空気の心地よさを感じて、いつの間にかそばにいるのが当たり前になっていた。

 先ほど見た写真は、確かに綺麗な色だったんだろう。だが、俺にはそれがどうも分からないのだ。残念ながら。



 俺の目は生まれながらに色の区別がつかない、色盲。症状の程度は個人差があるらしいが、俺の場合は白黒の濃淡でしか色を判断することが出来ない。さほど気にしてはいないし、日常生活も普通にできる。周りに気づかれることの方が珍しい程に、普通なのだ。色覚補正メガネというものが今の時代は手に入る。それでも、小さいころの俺はそれが体に合わず、なおかつ見た目の派手さからからかわれることも少なからずあった。幼い俺には我慢することが出来ず、それ以降使うこともなくなってしまった。もちろん、最後にメガネを通して見た色の記憶なんて何処かへ行ってしまったし、今はこの自分をすっかり受け入れている。

「ここじゃなくていいからさ、来週どっか行きたくね?」

「え、いいじゃん行こうよ!」

 行動派であるハルトとユウカによって淡々と話は進んでいき、相槌を打っているうちに日曜日にドライブに行くことが決まった。


「ねぇ、私カノンちゃん誘いたい!」

「私も今それ言おうと思ったのに…」

 藍染カノン。彼女もクラスメイトの1人だ。スラリとした手足に綺麗に整った顔は本当にモデルのようだ。そしてかなり賢い。俺たちの間で彼女は高嶺の花的存在であり、ユウカやナホのように皆が仲良くなりたがっている。容姿だけでなく性格まで素晴らしいと来た彼女は、クラス全体が気になる存在へとなっていた。

「ねぇカノンちゃんっ」

「…んぇ私?」

 彼女はまさか自分が呼ばれるとは…と言う表情でこちらへ来た。

「日曜日にドライブに行こうって話になってるんだけど、カノンちゃんも一緒に行かない?」

「ド、ライブ…?私も入っちゃっていいの…?」

「もちろん!」

「ナホとユウカ、藍染さんと仲良くなりたいってずっと言ってたんだよ」

「ちょっ、ハルトは黙ってて…!」

 ユウカが余計なことを言うなとでも言うようにハルトの肩をバシバシと叩く。告白をする訳でもないのに、と俺は吹き出して笑ってしまった。

「予定確認してみるね…!空いてたら、一緒に行ってもいい…?」

「うんっ、分かったら教えてね!」

 女子2人は彼女とお近づきなられるとルンルンだったが、結局日曜日、どうしても外せない用事があったみたいで一緒に行くことはできなかった。


「昨日誘ってもらったのに行けなくてごめんね…」

「全然いいよ!次もまた誘うから一緒に行こうね?」

「ありがとうっ…」

 ほっとした彼女の笑顔は、殺傷能力が強かったのか周囲にいた人全員が心臓を撃ち抜かれかけていた。

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