時間という名の薬

父の顔覚えてないのに、あの日の私は、幼かったのに、なのになのに、あの事だけ、その瞬間だけ、まるでそこだけ切り抜かれ、ずっしりと心に塗り込まれたように、そうあの日、父と母が喧嘩した事だけ鮮明に覚えてるなんて…。私は、その事が傷になり、そして寂しくなって、母の愛を必要以上に欲しがったかもしれない。だけど、母が求めてたのも優しさ、そう寂しい心を埋めてくれる優しさだった。


私は、一人にされた。


母は、何処かに出掛けたり、家に男を連れ込んで、夜になると母は女に戻った。狭い部屋で、隣から襖を伝う声。…それを聞くのが嫌だった。母は、私じゃなかったんだと思った。


私は、一人にされた。

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