第8話 満ちる月の奇跡 ~愛情運アップの一皿~

 満月の夜、「月のキッチン」の窓から差し込む月光は、店内を優しく照らしていた。店の扉が開き、華やかな雰囲気をまとった若い女性が現れた。彼女は、美しい顔立ちにもかかわらず、どこか疲れた表情をしている。


 ツキが微笑みながら迎える。

 「満月の夜にようこそ。この夜は、心を満たす力が最も強まる時です。」


 女性はカウンターに座り、深いため息をついた。




 「私、恋愛がうまくいかないんです。」


 女性は悩みを語り始めた。彼女の名前はアヤ。長い間片想いを続けてきた相手がいるものの、自分に自信が持てず、気持ちを伝える勇気が出ないという。さらに、恋愛の失敗を繰り返してきた過去が彼女の心に影を落としていた。


 「私なんかが幸せになれるはずないって、いつも思っちゃうんです。」


 アヤの言葉に耳を傾けながら、ツキは優しく答えた。

 「満月は、愛と感謝を満たす時。そして、自分を受け入れる力を与えてくれる時でもあります。」




 ツキは静かにキッチンへ向かうと、満月の夜にふさわしい料理を準備し始めた。選ばれたのは、ローズヒップやハニーを使った特製ソースを添えたグリルチキンと、ピンク色の野菜をふんだんに使ったサラダ。


 「この料理には、心を温め、愛を引き寄せる力が込められています。」


 ツキは皿をアヤの前に差し出し、こう付け加えた。

 「まずは、自分自身を愛し、認めることが大切です。この料理が、その手助けになれば。」




 アヤは一口、料理を口に運ぶ。その瞬間、体がふわりと温かくなる感覚が広がった。優しい味わいと香りが、彼女の緊張を解きほぐしていく。


 「これ……すごく美味しいです。それに、なんだか安心する味。」


 食べ進めるうちに、アヤの表情は次第に柔らかくなり、瞳には希望の光が宿り始めた。


 ツキは微笑みながら言った。

 「満月は、自分の願いを具体的に描き、それを実現する力を与えてくれます。あなたも、その力を信じてみてください。」




 料理を食べ終えたアヤは、店を出る前にツキに礼を言った。

 「なんだか、自分を信じてみようと思えました。明日、彼に話してみます。」


 満月の光を浴びながら、アヤの背中は明るさを取り戻していた。


 カイはその様子を見て感心したように言う。

 「食べ物って、こんなに人を変える力があるんですね。」


 ツキは静かに頷いた。

 「料理は心を満たす鏡。満たされた心は、運命を動かす力を持っています。」




 数日後、アヤが再び「月のキッチン」を訪れる。彼女の表情は輝き、その手には小さな花束があった。


 「聞いてください、ツキさん!彼と話ができたんです。なんと、彼も私に好意を持っていたって……!」


 ツキは驚いた様子もなく、穏やかに微笑むだけだった。

 「おめでとうございます。月が満ちる夜に、あなたの心も愛で満たされたのですね。」


 アヤは感謝の気持ちを込めて頭を下げた。

 「本当にありがとうございました。この店に来たことが、私の人生を変えてくれました。」


 満月の奇跡は、また一つの運命を動かした。月光が差し込む「月のキッチン」は、今日も誰かの心を満たすために静かに佇んでいる。

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