第3話 学校


 学校が天国のように感じられた。以前の父のおかげで名門私立中学に進んだ私は比較的多くの友達に恵まれていた。


「おはよう、あや

「おはよう、真子まこ

「昨日なんでライン返さなかったのよ」

「ごめん、用事があって……」

「ふーん」

「あ、真子、教科書一緒に見せて」

「ん? 別にいいけど……。最近変だよあんた」

「そ、そお?……」


 人当たりの良い子を演じるようになった。多分それは父からの恐怖が背景にあるのかもしれない。

 真子は私に教科書を開いて見せる。


「綾、ノートは?」

「ごめん、忘れた……」

「ほい、ノート二枚上げるよ」

「あ、ありがと……」


 当たり前な優しさに触れると泣きたくなる。いつの間にか忘れてしまった日常に私は少し悲観するような目を持ってしまっていた。

 授業が終わる。放課後に寄り道しようと誘ってくれる真子を断ると、私はふらふらと狭い街中を徘徊するのであった。

 夜が近づいて来る。私は〝わたし〟になる。私が私であるためのたった一つの方法だった……。


 しかしその頃、家に戻らない私をご丁寧にも父が警察に連絡してくれていた……。



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