溢れ出る本音

「君は、そんなに許嫁であるあの男が気に入らないのかい?」

「……」

「そろそろ認めなよ。」

「……」

 言葉が出ない。

「君は優しいから前世も、今も、結衣を恋愛対象として見ないようにしてるんだよね?」

 黙り続ける俺に男は言葉を続ける。

「本当は結衣のことが好きで好きでしょうがないんでしょ?」

「ああ!そうだよお!」

 俺は怒鳴ってしまった。

 でも、スイッチが入ってしまって自分でも止められない。

「俺は最初から結衣に対して恋愛感情を持っていた!でも!6歳年下の女の子を好きになるなんておかしいし!」

 黙って聞く男に俺は怒鳴り続ける。

「俺が結衣に好きっていえば簡単に付き合えってくれるよ!でも!それは結衣のためにならない!」

 俺の本音がどんどん溢れ続ける。

 俺の本音を一通り聞いた男は口を開いた

「そうか。じゃあ、君にとって許嫁は邪魔な存在?」

「そんなことはな…」

 一秒ほどの沈黙があった。

 でも俺には十秒くらいに感じられた。

「…いや、邪魔だ。」

「そうか。じゃあ、君の悩みは結希に許嫁いることなんだね。」

 悩み…間違ってはいない。

「お前は、俺が悩んでいるときに現れるのか?お前は本当に何者なんだ?」

「うん、悩みがあるときに現れるよ。で、何者なのかっていう質問に対しての答えは難しいねぇ~。まあ、神ともいえる。神の定義にもよるけど。全知全能の存在を神と呼ぶのなら僕は神じゃない。でも人智を超える存在を神と呼ぶのなら、僕は神と呼べる存在だね。」

「へー。」

 めんどくさい話になったので適当に返事した。

「それと一つアドバイス。許嫁は頭が悪い上に性格が悪く、負けず嫌い。挑発に簡単に乗るよ。そして犯罪を犯している。」

 それを言った男は消えた。

 やっぱり顔を覚えることができない。

「あれ?結希のこと好きなの?ごめ~んねぇ~。俺の女だから。」

 気づいたら時間が戻っていた。

「お嬢様に色目を使うなどとんでもない!お嬢様の幸せだけが私の願いです。」

「ほぉー、よくわかるじゃんかよ。じゃあこれ捨ててきてー。」

 男は俺に空き缶を投げつけた。

 このクソ野郎ぉぉ!と、心の中で思った。

 それを見た結希が、何か言おうとしたがすぐに口を閉じた。

 俺は黙って空き缶をゴミ箱まで持っていった。

 結希は終始、嫌な顔を浮かべていた。

 俺の中であの男のイメージがどんどん下がっていく。

 もうすでに俺の母親以下だ。

 結希がかわいそうで仕方ない。

 貴族である結希の許嫁なら、アイツもかなりの富を持っている可能性があって、貴族であるのなら……お前をその地位から引きずり落としてやるよ!!

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