第6話 僕は小説と高橋さんについて少し考えてみた

 僕は肩を落とす彼女を見ていて、フッといま書いている『ラブコメ』ってジャンルについて考えていた。

 ラブコメの『コメ』ってコメディーの略だけど、小説の世界では、そのまんまの意味とはニュアンスが違っていると思う。

 小説では非現実的な喜劇って言った方が、正しい気がしている。

 僕が聖典と崇めている作品だって、SF要素が無ければ純真な愛情が向けられている恋愛小説だ。

 そこに鈍感主人公がいるだけで、傍目にはちっとも面白くない。

 むしろリア充は滅べばいいのに!って思う。


 つまり非現実が作品の面白さや感動を呼ぶから、ラブコメは成立しているんだと思う。

 そこへいくと目の前の高橋さんは、現実の女子なのにとても非現実的だ。

 生徒会の役員で、文芸部の部長で、図書室で本を読んでいる眼鏡キャラなのに陽キャで、なにより可愛いのだ。

 一人でどれだけ属性が入ってるんだ!と叫びたくなる。

 異世界ものなら、チート持ちのヒロインみたいだ。


 そんな他愛のないことを考えていたら、高橋さんはいつの間にか失意の内から立ち直っていた。

 そして突然に、こんな提案をしてきた。

「もしも佐藤君が文芸部に入ってくれたら、私、佐藤君とお友達になってあげても良いわよ」


「なんで、そんなに一生懸命なんだよ」


「だって……」

 高橋さんは、潤んだ瞳で上目遣いで続けて言った。

「今年……あと実質二ヶ月の間に部員が増えないと、文芸部が廃部になっちゃうんだよぉ」

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