『ダイバー3/マジックブレーカー』
宮本 賢治
第1話『キノコ狩り』
お腹空いた。
温かいシチューが食べたい。
いろんな種類のキノコをいっぱい入れたシチューを作ろう。
サラはキノコを採るためにここトランキアの森に入った。
重ね着のチュニックの上からケープを羽織り、つばの広いストローハットを被っている。
ブロンドの美しく長い髪。
透き通るような白い肌。
ブルーサファイアのような瞳。
サラは美しい少女だった。
木漏れ日の中を歩くと、倒れた倒木に新たな命が無数に芽生えていた。
サラはキノコを摘み、バスケットに詰めていった。
祖父に教わったポイントを周ると例年通りの収穫を得られた。
広葉樹と針葉樹が混ざった混成林の中を歩くと、地面にキノコが群生していた。傘の表面の色が栗褐色の丸々としたキノコ。
目の前のキノコは一見、地味な見た目、丸々とした肉付きから美味しそうに見える。
しかし、食べると下痢、嘔吐、腹痛などの胃腸系の食中毒を起こす毒キノコだ。
足を悪くした祖父に代わり、サラが森を歩くようになり、2年が経った。サラの見極める目は確かだ。満杯のバスケットに毒キノコは1つも無かった。
夢中でキノコを求めて歩き回ったら、喉が渇いた。
緩やかな傾斜を下り、小川に向かった。
清らかな流れを手に汲み、喉を潤す。
ふと、見上げると、丘の上の城が見えた。
ブランシルヴァニア城
サラは小さい時に、こうしてお城を眺めるのが好きだった。白い城壁。オレンジ色の屋根。
礼拝堂の屋根が尖っているのが、おとぎ話に出てくる小人の帽子に見えて、それがサラにはかわいく思えた。
しかし、ヴォイヴォダ(領主)の悪い噂を聞いて以来、サラにはお城が禍々しい不気味なものに感じられるようになった。
領主リドルは魔法使いだと言う。その魔力を維持するため、清らかな乙女の血を求めて、処女狩りを行なっていると言う噂だ。
こんなもんかな。
サラは肩に掛けたバスケットの重みに笑みを浮かべた。
家路に着くサラの行く手を塞ぐように立つ黒い影。
サラは足を止めた。目の前の異様な怪人に血の気が引いた。
鳥のくちばしが付いたようなマスクで顔を覆い、つば広帽子を被り、ろうを引いた重布のガウン。
ペスト医師のような出で立ちの男。全身が黒い。
「リドル卿がお呼びだ、サラ嬢」
鳥マスクの男がそう言ってサラに近づくと、サラは男の奇妙な出で立ち、そして、リドルと言う名前を聞き体を強張らせた。
「リドル···ブランシルヴァニア城の黒い魔法使い」
サラの声には恐怖が混じり、表情には絶望が見られた。
鳥マスクの男の手がサラに伸びたその時、低い唸りが聞こえ、男は後ろに向かって倒れた。
パリパリパリッ。
鳥マスクの男に青白い電気が流れて、スパークした。
サラは人の気配を感じ、その方向を振り向いた。
着古したポンチョを着て、フードを深く被った男。男は逆手に持った黒い棒を振り切っていた。艶のある黒い棒は青白い電流を帯びていた。
サラは恐る恐る、ポンチョの男に問い掛けた。
「あなたは?」
ポンチョの男はフードをめくった。赤毛の短い髪が逆立った若い男だった。
男が答えた。
「おれの名前はエム。
ダイバーだ」
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