故郷の森を追放されたエルフの少女は冒険者ギルドに就職することにしました
酒々井 雪見
第1話 幼少期
私には魔法の才能がなかった。才能がないどころではない。ほとんど魔法を使うことができないのだ。エルフは魔法と共に生き、生涯をかけて魔法の技術を磨く。魔法はエルフのアイデンティティであり誇りであった。卓越した魔法の技術があるからこそ、他種族から畏敬の念を抱かれて、恐れられてもいた。
私は代々優れた魔法使いを輩出してきたエルフの貴族の三女として生まれた。姉は治癒魔法に優れ、歌と踊りを得意としている。兄は攻撃魔法が得意で今は士官学校で軍人としての教育を受けている。
三女の私は魔法の才能がなく、なんの取り柄もなかった。優れた魔法使いである母は私が5歳になる頃には、私に魔法を教えることを諦め、家の中では私のことを空気のように居ないものとして扱った。私にとって世界は檻のような場所だった。他のエルフは森羅万象を操り空を飛ぶ。なぜ私だけが他のエルフと同じような魔法が使えないのか。なんと世界は不自由な場所なのだろうかといつも感じていた。
いつしか私は屋敷の中にある書物庫に篭り、ありとあらゆる本を読み漁るようになった。本を読んでいる時だけは、私は自由を感じることができた。神話、哲学、数学、経済、軍事、旅行記、天文学などありとあらゆる書物を読んだ。
他種族が書き記した書物を好き好んで読むエルフは少ない。一般的にエルフは傲慢だと言われているが私は傲慢とは少し違うと思う。単にエルフは他種族に興味がないと言うほうが正しい。しかし私は種族関係なく優れた書物はなんでも読んだ。私にとって物語や学問の世界は、唯一自由を感じることができる場所だった。
エルフの貴族の子供は10歳から親元を離れ、首都近郊の寄宿学校に通う。家から離れ学校での生活は私にとっては救いだと思っていた。しかし、学校に私の場所はないことはすぐに分かった。
学校では魔法の授業があるのだが、私ほど魔法が使えない生徒はいなかったのだ。千年近く生きている学校の教師でさえ、私ほど魔法が使えないエルフは見たことがないと言った。同級生だけでなく他学年の生徒、教師までもが私が魔法を使えないことを笑った。
私が唯一使える魔法は、文字や図表を思考のスピードと同じくらいの速さで正確に書く魔法である。この魔法は筆記魔法と呼ばれているが、私ほどのレベルで使いこなすことができるエルフはほとんどいない。他のエルフは炎や水、風を操る魔法、空を飛ぶ魔法など多種多様な魔法を使うことがでる。筆記魔法は使うことができてもなんの役に立たないものだと思っていた。
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