鏡開き異界譚

 一般的な鏡開きとは、1月11日に、お供えしていた鏡餅を無病息災を願って食べる行事のことである。

 しかし、Kさんの家では、違っていた。


「三面鏡を開いて、祈るんですよ。家の神様に」


 Kさんは、そう述べる。

 なんでも、三面鏡に被せていた布を取り、鏡を開いて異界にいる蛇神に、願いを告げるのだそうだ。

 鏡面異界というものは、様々な時代・土地で見られるポピュラーな考えである。鏡の中の世界という概念は、筆者もよく知るところだ。

 また、カガチ(蛇)の目、“カガメ”は、鏡の語源だとされることもあり、とぐろを巻いた蛇の姿を模したのが鏡餅だとする説も存在している。

 鏡は古くから、この世とあの世の境界とされてきた。

 Kさんは、三面鏡をくぐり、異界で神に会ったことがあると言う。

「真っ白な大蛇でした」と、Kさん。

 白蛇は、日本各地で縁起のいい生物として信仰の対象となっている。

 Kさんの家では、餅を白蛇に見立てて食すのが毎年の行事だとも言っていた。

 三面鏡から繋がる異界は、美しい湖のほとりらしい。


「稀に、帰って来なくなる人もいたみたいですよ」


 以上が、神人市の一部に伝わる“鏡開き”である。

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