3話
蒼翼将軍ヴァルムント。
特殊イベントで、皇子のディートリッヒと共に操作することがあるのだが、その時のイベントで2人は70とか80とかそこいらのレベルだったはず。
それでいて主人公達がこのオプファン村にくる時は30レベルくらいが普通。
そのヴァルムントのレベルだけでも反則に近いのに、ヴァルムントが黒龍特効と呼ばれる所以は、黒龍の弱点がヴァルムントの得意とする氷属性と剣にあるのだ。
2で黒龍を倒すイベントでは成長したヘルトくんとルチェッテを固定とし、2の主人公パーティと挑むことになる。
その時のヘルトくん初期装備が、1での隠し武器でヴァルムントが使っていた剣のアスカロン。
そしてヴァルムントの使用技を取得した状態にもなっている。
かつてのライバルの剣と技を取り込んだヘルトくん、かっこいい〜! というのは置いておいて、黒龍討伐においてヘルトくんと補助のルチェッテは大きな戦力だ。(縛りプレイしてる人は、その2人を使わないで戦うとかあったけど)
1の時から言われていたことだけれども、この2イベントも踏まえると、ヴァルムントそのまま黒龍戦に突っ込ませれば勝てたんじゃね? である。
黒龍戦は負けイベだ。通常進行でいっていたら全滅するので、全員鍛えていれば倒せる……と思ったこともありました。
黒龍に付属されている耐性が氷以外になっているので、魔法最強であるジネーヴラが最後らへんで覚える氷魔法でそこそこな戦いになるくらい。
他の氷系を覚えるヤツはこの時点で仲間にできないから、ジネーヴラでどうにかするしかないのだ。
なおターンで強制終了になるのもあるから、倒すのは無理。
製作陣からの絶対に倒させねーよという意地を感じる仕様だった。
ただバグやゴニョゴニョ……をして、1の黒龍戦にヴァルムントを戦わせた動画を見たことあるけど、実際にヴァルムントはマジで特効すぎて笑った。
ヴァルムントが敵仕様だから強いのはあるんだろうけど、もうお前1人でいいんじゃないかな!
そんな人間であるからこそ、ヴァルムントを儀式へ連れて行きたくないのに!!
ついてくる目的よく分からないけど、黒龍戦に参戦したらどうすんの!!
あ〜ちくしょ〜と思っていても時は戻らない。現実は非情である。
新月は明後日な為に泊まることになったヴァルムントを、俺は心の中で泣きながら客室へと案内していく。
案内するほどの距離じゃねえけど、お清楚巫女はわざわざするんじゃい!
「ヴァルムント様、こちらが客室でございます。粗末なもので申し訳ございませんが、何卒ご容赦下さい」
「いえ。毎日掃除をされているのが分かる、素晴らしい部屋に見えます」
おっ、お前ちゃんと見ることができる人なんじゃねーか。
そうそう、使わないけどちゃんと客室まで家中毎日掃除してるんだよな。お清楚巫女は一日にしてならず!
「お食事はどうなされますか? お口に合うか分かりませんが、わたくしの料理で問題なければご用意いたします」
「……貴方が料理されるのですか」
「ええ。わたくしが料理を行える年齢になってからは、ずっと」
だって少しでも飯は美味しく食いたいじゃん……。婆様の薄味すぎるんだよ。
基本精進料理みたいなのしか食えないけど、たまに他の人にも作ったりもするから普通のも作れる。ちょっと味見とは言えない量の味見をしたくてですね。
「貴方の手を煩わせることになりますが、よろしくお願いします」
俺は分かりましたという笑みを浮かべて頷き、一礼をしてから客室から去っていく。
2人分のしかねーし、ヴァルムント用のご飯作らないといけないから食材分けてもらわねーと。
ついでに……というかこっちがメインなんだけど、主人公達の様子を見に行きたい!
気持ちスキップしてる感覚で外へと出ていく。
ヘルトくん達がこの村に戻ってきた理由は2つある。
一つはヘルトくんとラドじいさんの実質パワーアップイベントだ。
ラドじいさんがどうしてここに逃れてきたのか、ヘルトくんの父親がどんな人だったかを語っていく。
その流れでヘルトくんは父の形見であり、紅翼将軍の証でもあった状態異常無効ペンダントを手に入れ、ラドじいさんは使える技が増える。
もう一つは軍師セベリアノによる提案で、さっき言った紅翼将軍の証と、黒龍のいる証を求めて村に来たのだ。
黒龍のは正直いらないんとちゃう? って感じではあるのだが、説得力というものが必要だったらしい。
皇族が黒龍を倒していないのに、倒したという嘘をついたこと。
その証拠として、本当に黒龍がいるという証拠を手に入れる為である。
メタ的なことを言うと、ヘルトくんの成長を描くには必要なエピソードだからね。仕方ないね。
セベリアノが皇族がひた隠しにしてた事実をなんで知ってたのかは知らん。
コイツについては、住んでたところが滅ぼされたから滅茶苦茶皇族を恨んでる。ってくらいしか明かされてないんだよな。
恨みで調べまくったから知ったんじゃないかってのが、ファンの間での共通認識みたいになってた。
ラドじいさんのお家に近づくと、ヘルトくん一行が話し合いをしている。いつもの儚げ笑顔を装備してからそばに寄っていく。
流石にゲームのセリフは覚えてねーから、いつも通りお清楚巫女で適当に通すぜ。
「カテリーネ、元気にしておったか?」
「ラドおじさま、ヘルトくん。お久しぶりです。はい、お二人もお元気そうで何よりです」
「リーネ姉さん……。黙っていなくなってごめんなさい」
しゅんとした顔で俺を見てくるヘルトくん可愛いねえ! 目をまんまるくしてから口を尖らせ嫉妬の表情に変えたルチェッテも可愛いねえ!!
ああ〜少年少女の青春は心に効く。村には子供があんまりいないからさ……。
「ヘルトくんが無事でいてくれてよかった。わたくし、毎日ヘルトくんとラドおじさまが無事であるようにとお祈りした甲斐がありました」
「えっ!? あっ、ありがとう」
真っ赤になっちゃって可愛い〜!! ういやつよのぉ。ルチェッテはルチェッテでぷくっと頬を膨らませてるし、たまらん。
ちな、祈ってたのはマジ。死なれちゃ困るし……。
「おねーさんが黒龍の巫女さん? 初めまして、オレはセベリアノ。よろしくね」
「俺はナッハバールだ」
「あっ、あたしはジネーヴラっていいます……」
「……わたしはルチェッテ」
怒涛の自己紹介タイムだぁ。先に挨拶しておけばよかったわ、お清楚巫女は挨拶を欠かさないだろうし。
「わたくしは黒龍の巫女を務めております、カテリーネと申します」
ほんのり目を伏せながら綺麗で美しい一礼。よし決まった! 印象がよくなるように淡い笑顔も振りまいておくぜ!
「カテリーネさん! 早速で悪いんだけど、オレ達黒龍が祀られているところを見たいんだ。いいかな?」
「祭壇をですか……? 明日でよろしければ、ご案内致します。本日は、所用がございまして」
「……ヴァルムントか」
ケッという顔でナッハバールが呟く。
別にヴァルムントのことがなくても今日は無理なんだけどな。ゲームでもどの道今日行くことはなかったけど、行って帰ってをするにはちょっと遠い。
「ヴァルムント様とはお知り合いなのですか?」
敵対してるって知っちゃいるけど、『カテリーネ』は知らないからな。なんかの拍子でボロ出す前に聞いておく。
それにセベリアノが女子ウケを狙ったであろうあざとい表情をしながら答えてくれる。
「ちょっとした行き違いがあって、敵対勢力だと思われちゃってるんだ。ごめんね〜、不穏な空気見せちゃって」
「いえ。ラドおじさまとヘルトくんと御連れ様に、そのようなことはないと理解しております」
わたくしは信じてますわよオーラを出しまくって答えた。
あっ、ヘルトくんとルチェッテの顔が若干引き攣ってる。嘘がつけない子達だなぁ。
わたくしは見てないふりしてあげますわよ〜、もちろん。
「では明日朝早くになりますが、祭壇へご案内致します。ラドおじさま、我が家の前でお待ちしておりますので、よろしくお願い致します」
「ああ、分かったぞ」
一応黒龍を倒した地ということで、ごく稀に見学希望者がくる。
戦える人達に限るけど、そういう時は普通に祭壇へ案内するようにしてるんだよな。
と言っても、実際に黒龍が封印されてる場所は祭壇で隠されてる扉の先だったり。
安易な場所に隠してるな〜って思うけど、まあこれゲームだったし……。ゲームだとそういう場所にあるもんだし……。
軽い会釈をしてから主人公一行と別れ、食材を分けてもらいにご近所さんへと向かっていく。
ひゃっふー、久々に肉とかつまみ食いができるぜ〜!
ご近所さんから頂いた鶏肉を元に、ヴァルムントの昼ご飯を作った。野菜と鶏肉のスープだ。
その際につまみ食いも忘れない。ちょっと肉多めにもらったし、むしろこっちが本命まである。
……ああ〜! 肉、最高〜! やっぱ人間、肉食ってないとダメなんすわ。
なんだっけ、アレ……あれだよあれ。忘れたけどアレだから。肉食わないと人間バランス悪くなるとかあったはず。
だから俺が肉食うのもなーんも問題はないって訳なんですね!! うめ……うめ……。
っは〜。これで十分。そんなに食ってないけど、悲しいことに、この体じゃそもそも沢山食べられねーんだよな。
てかいい加減ヴァルムントにご飯できたよーしてやらねーと。
婆様は儀式に必要なものの準備があるからか、先にご飯食べたみたいだな。
……ってことはヴァルムントと食事一緒に取らなきゃいけないってこと!?
い、いや、先に食べてもらった後に俺は食べればいいし……、つまみ食いしたからそこまで腹減ってねーし?
だから大丈夫大丈夫と思いながら、あらかじめ買っていたパンと作ったスープをテーブルの上に配膳してからヴァルムントを呼びにいく。
ちゃんとノックをし返事がきてから入っていくと、ヴァルムントはベッドに腰掛けて剣の手入れをしていた。
アスカロンじゃん、うおーかっけー。リアルで見ると違うなぁ。刀身が薄青くなってて綺麗だ。
「ヴァルムント様、お食事の準備ができました」
「ありがとうございます、カテリーネ様」
「……わたくしに敬称をつける必要はございません。どうぞ、カテリーネと」
ちょっと気になってたんだけど、巫女相手だからなのか敬語使ってきてる。
本来のお役目を考えたらまーそうなんだけど、ヴァルムントがそうする必要はないと思うんだよなあ。
「いえ、どうかこのままで」
「そうですか……」
き、気まず〜。
ヴァルムントは剣を鞘にしまってから腰に携帯し直し立ち上がった。
それに合わせて俺も部屋を出てテーブルへと戻っていく。
「ではどうぞお召し上がり下さい。わたくしは失礼致します」
「……貴方もまだなのでは?」
「はい。ですが、わたくしはヴァルムント様が食べ終えてからいただきます」
そこまで腹減ってねーしな。やさ〜しく微笑むと、ヴァルムントはその面のいい顔をちょっと顰めてからこう言った。
「一緒で構いません。わざわざ別で取るなど効率も悪いでしょう」
「いえ、わたくしは、」
「私が良いと言っています。指摘する者もこの場にはいません」
め、めんどくせ〜っ! ちっくしょー覚えていろよと思いながら、お言葉に甘えて……と言って自分の食事をテーブルへ持ってきた。
そして二人揃って今日も食事を食べられることに皇族への感謝の祈りをする。いただきますみたいなもん。
さーて食べるぞ〜ってなったとこで、ヴァルムントが料理をじっと見つめてる。すまんな質素なもので。
「申し訳ございません、この村ではこのようなものしか用意できず……」
「違います。……私が先にというのが、申し訳なく」
何が? という問いをする間もなく、ヴァルムントは「お気になさらず」と言って食べ始めた。
な、なんなんだコイツ。この村に来たことといい意味不明がすぎる。
結局食べ終わるまで会話という会話はないままだった。ううう、どうしてこんな思いをしなければならないんだ……。
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