異世界で敵のヴァンパイアにモテすぎて困ってます。
しゃりん
プロローグ
「きゃあんっ!」
肉まんを食べようと掴んだら、可愛らしい声が聞こえた。
それは白い布がドレス状に大事な部分は覆われながらも、とても深い谷間がのぞき見える、たわわに実った肌白い肉まん、男の本能がそこから視線を外させようとしない。
(もみもみ、もみもみ)
ああ肉まんじゃないや、とても大きい胸、おっぱいだった。
壁も奥行きも感じさせない真っ白な場所で、気づいたら中腰の女性の胸を掴んでいたようだ。学校から帰って制服姿のまま、家でくつろいでいた筈なのに。
「あの~」
おかしい。俺は小腹が減ったから肉まんを食べようとしていた。それなのになんで、女性のおっぱいを掴んでいるんだ。俺の肉まんはどこにいったんだ?
(もみもみ、もみもみ)
しょうがない、なくなったのならこの肉まんで我慢しよう。そう、しょうがな――、
「へぶ」
「ちょっと、いつまで揉んでいるですか?」
ほっぺが誰かの両手で押さえられ、そのまま顔を引き上げさせられた。
「はい、こんにちは」
「こ、こんにちは……」
今も胸を掴んでいるというのに、女性に怒った雰囲気はない。
「ふふっ」
神々しく光っているように見えるウェーブのかかったブロンドの髪。
すべてを受け入れてくれるような柔らかい笑顔。
甘えたくなる女性の包容力を感じさせる、完璧な肉まん、もといプロポーションな体。 ませた子供を慈しむような目で見てくる彼女はまさに、女神だった。
「あ、すいませんでした……」
さすがにいたたまれなくなった俺は、彼女の胸から名残惜しいが手を離した。
「構いませんよ、いきなり呼び出した私の責任でもありますから、来栖真守さん」
――来栖真守は俺の名前なのだが、何で知ってるかよりも、
呼び出した? そういえばここはどこだ? 俺の家じゃないのは確かだ。
「私は女神アスフォルトと申します」
やっぱり女神だったかと思うと同時に、女神が実在したという事実が頭の中でせめぎ合うが、それよりも、どうして俺がここにいるのかわからない。
「えっと、ここはどこですか?」
「ここは生と死の狭間、本来、生きた人がたどり着けない場所です」
「……俺って、死んだんですか?」
もしかしての事実に恐る恐る訊くが、女神は眼を閉じて首を振った。
「いいえ、そうではありません。あなたの父親についてお願い――」
「親父? あのクソ親父が今どこにいるか知ってるんですか!」
親父と聞こえ、咄嗟に俺は女神の両肩を掴んでいた。
俺の親父は一年前ぐらいに『すぐに帰る』と、書かれた一枚の紙を残して行方不明だったのに! 今までどこにいってやがるんだあのクソ親父!
「落ち着いてください、真守さん」
女神に窘められ、俺は自分が思っていた以上に動揺していることに気づかされた。
「……すいません、ちょっと驚いちゃって、もう大丈夫です」
「あなたが必死になるのはわかります。ただ、ここは生と死の狭間、生きた人間が居続けられる時間はわずかですので、落ち着いて聴いてください」
もう驚くことがないように、俺は自分に言い聞かせるようにしっかりと頷く。
「ただ私の用件より先に、真守さんは知っておかないといけないことがありますね。簡潔に申し上げますと、あなたの父親は異世界にいます」
「えっ! いや……な、なるほど? あ~、さ、最近、流行ってますよね?」
一瞬驚きの声を上げそうになるが、必死にこらえた自分自身を褒めたい。
でもよく考えれば、こんな不可思議な場所に連れてこられた時点で、そういった可能性もありえるか、だけどまさか親父の居場所が異世界とは……。
「ちなみにですが、ご両親は異世界の出身です」
「……へぇっ! へぇ~じゃ、じゃあ俺も、い、異世界の人間なのかな~?」
大丈夫だ俺、俺は冷静だ。だって親が異世界にいるのだから、親が異世界の人間である可能性は高い筈だ。だからここまで想像しなかった自分の落ち度だ。
「いえ、あなたは人間ではありません。少し特殊なクルースニクです」
「なんぞそれーーーーーっ!」
もう無理だった。俺の冷静を保とうとする理性が崩壊した。
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