恋愛クラウドファンディング

ちびまるフォイ

お金以上のお返しを

「なあ、俺って一生彼女できないのかなぁ」


「そんなことないよ。飲み過ぎだって」


「だってもう30歳になって……ぐすぐすっ」


「わかったわかった。家まで送るよ」


「ありがとう。もうお前は家族みたいなもんだよ」


「はいはい」


「俺、こんな自分をなんとかしたい。変えたいよ……」


「応援するよ」


友達を家に送ったあとに家についた。


「はあ今日の飲み会はすっごい疲れたなぁ」


友達は昔から彼女がほしいとずっと言っていた。

それが叶わないことでますます病んでいる様子だった。


応援するといっても何ができるのか。


「アドバイスなんてできる身でもないしなぁ」


小学校からの同級生なので恋は成就してほしい。

しかし自分ができることなんて。


「……え? なにこれ」


ふと立ち上げたPCの画面に友達が映っていた。

クラウドファンディングのページだった。



『山田の恋を応援しようプロジェクト』



「山田じゃん……」


ちょうどさっきまで飲みつぶれていた友達だった。

いつのまにクラファン始めていたなんて。


「なになに。わたくし山田は気になっている異性がいます。

 恋のアプローチをするにも自信がないので応援してください

 ……ってマジかよ! そんなこと全然言ってなかった!」


もちろん支援者はゼロ。

このままじゃ山田の恋は誰も応援していないことになる。


「まあ少額ならいいか。モチベになればいいや」


投資した翌日のことだった。

いやにハイテンションの山田がやってきた。


「うぇーーい!!」


「今日はごきげんだな。どうした?」


「実は俺の恋を応援してくれる人がいたんだよ!!」


「へ、へぇ……」


「自分なんか誰にも見られていないと思っていたけど

 ちゃんと世界……いやネットには見てくれる人がいるんだな」


「よ……よかったじゃないか。それで? なにかアプローチするのか?」


「ううん」

「えっ」


「だって俺なんて魅力ないぜ?

 だからもうちょっと投資額集まったらプレゼントでも送って

 なんとか彼女に振り向いてもらうくらいしか」


「山田ァ! そんなことしてたら彼女別の男に向いちまうよ!」


「でもこのルックスでアタックするの怖すぎるよ!」


山田は昔からコンプレックス強めの男だった。

いくら言葉で応援しても自信には繋がらないだろう。


とくれば、やることはひとつ。


「山田、待ってろ。俺が特大の応援をしてやる!!」


クラウドファンディングに今度はさらに投資を行った。

数日後、山田から連絡が来てカフェに呼び出された。


「山田。その後どうなんだ? 恋の行方は?」


「いやもう最高だよ。プレゼント作戦大成功さ」


「よかったなぁ!」


「なんか恋愛の一歩目を踏み出せた気がするよ。

 ああ、クラウドファンディングはじめてよかった!」


投資で得たお金でちょっと良いものをプレゼントした。

そのことが関係を進展させたようで安心する。


「がんばれよ山田!」


「ああ! 次はここに彼女も連れてきてみせるよ!」


「楽しみにしてる!」


クラウドファンディングを介しての山田の応援は続いた。

投資によって得たお金でプレゼントを贈り続けていたようで、

サイトにもその成果を書いてくれるようになった。


しかし、あるときをきっかけに更新がぴたりと止まってしまう。


今度は自分から山田をカフェに呼び出した。


山田はガンを宣告された人よりも青い顔でやってきた。


「や、山田……お前大丈夫か……? 顔色悪いぞ?」


「うん……」


「なにかあったのか? プレゼントで彼女振り向いてくれたんだろ?」


「最初だけ、な」


「え?」


「最初のほうは喜んでくれたんだよ。

 でもプレゼントを贈り続けていたら逆に不気味がって……。

 なんかキモいストーカーのように思われたんだ」


「そ、そうか……やりすぎたか……」


「俺もうどうしたらいいかわかんねぇよ!

 今までクラウドファンディングで応援してくれていた人にも

 こんなこと話せない! お金も返せないし!!」


「ばかやろうーー!」


山田のほっぺをひっぱたいた。


「ここで諦めるなよ! なんのために投資したと思ってる!

 リターンなんか気にしちゃいない!

 最大のリターンはお前の恋の成就だろうが!!!

 

 

 って、投資した人は思っているはずだ!!」


「そ、そうなのかな……」


「そうだよ! お前が彼女を諦めて返金なんて望んじゃいない。

 投資額を全部使い倒してでも、彼女を射止めてみせろ!」


「……!」


「山田、その投資している人だけじゃない!

 俺だってお前の恋を応援してるんだ!」


「ありがとう……! 俺がんばるよ!!」


「ああ! 返金だなんて考えなくて良い!

 お前はクラファンの投資額をフル動員して頑張ればいいんだ!!」


「わかった!! でもなんでお前がそんなこと言えるんだ?」


「き、きっと投資した人もそう思ってるってことだよ!!」


その日から卑屈な山田はなりを潜めた。


恋が成就しなかったら投資した人にどうお詫びしよう。

そんなことは微塵も口にせず自分磨きに明け暮れた。


そのための投資額をこちらも惜しまない。


恋が成就する成功率をお金で引き上げられるのなら、

そこに天井なんて存在しない。ぶっこむだけだ。


「うおおお! 頑張れ山田!! 応援してるぞーー!!」


投資額は目標金額をはるかに上回った。


山田はどんどんキレイでかっこよく磨きがかかった。

女性をエスコートするマナー講座を身に付けてゆく。


そして、最後の呼び出しがきた。

待ち合わせ場所はいつものカフェ。


そこに自分の知らない女性がいることに気づいた。


「やあ久しぶり。座ってくれよ。

 紹介する。彼女が俺が前から気になっていた佐藤さん」


「佐藤です」


「うおおお! 山田!! ついに成就したのか!!」


「うん。だからまずは一番大切な友達に紹介したくて」


投資したかいがあった。

友達の幸せの後押しができたことが何よりうれしい。


「で、実は話したいことはそれだけじゃないんだ」


「え?」


「実は結婚することも決まって」


「おおお!?」


「私、佐藤と名乗りましたけど、もう山田です」


「おおお! おめでとぉぉぉ!!」


「ありがとう。きっと幸せな家庭をつくるよ」


もう拍手が止まらない。

幸せな家庭の手助けすらできたなんて。


「ただひとつ残念なことがあって……」


「残念なこと?」


「この恋がみのったのも、一つは友達であるお前。

 そしてもうひとり立役者がいたんだ」


「クラウドファンディングの人?」


「どうしてそれを? まあそうなんだ。

 たくさん投資してくれたから、自分を磨けたし

 今ではこんなに幸せを手に入れることができた」


「いやいや! 気にしてないよ!

 今のふたりの状態を見ればきっと喜んでくれるよ!」


「いいやそれじゃ俺のきが収まらない。

 クラウドファンディングである以上、投資者へのリターンは必須なんだ」


「そうなのかぁ。いやそんなこと必要ないのにぃ~~……」


「なんでお前が照れてるんだ?」


クラウドファンディングとはいえ見返りを求めていたわけじゃない。

純粋に山田の恋を応援したいだけの話だった。


でもなんらか見返りが得られるのであればもらっておいて損はない。

それだけの貢献をしたのだから。


「それで山田。投資者へのリターンは決めてるのか?」


「実は決めてるんだ。きっと喜んでもらえると思う」


「おお、それは良さそう」


「投資した人はひとえに俺の幸せを望んでるはず。

 幸せになったことを一番知りたいし、成り行きも知りたいはず」


「たしかにそうだなあ」


「そんな投資者が一番喜ぶリターンはこれしかないと思ったんだ」


山田は1枚の市役所の書類を出した。




「投資者へのリターンは、俺の養子になってもらう!」





「絶対やめて」


テーブルに出された養子縁組はその場で引き裂いた。

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