第124話 カフェと市場に行こう

「ふふ、王都の貴族たちはレティさんと違ってウィリアムさんのことを分かっていないのですわ」

 フローラ殿下は微笑んだ。


「ウィリアムさんは優しい人ですから、たとえばご自分が簡単に家を建てられるのに、大工たちが失業しないように自制されていますよね」

「殿下は気づいておられたのですか?」 


「ええ、ソフィーさん。きちんとウィリアムさんを見ていれば分かることですわ。その点、南の未開地では何の遠慮もなく力を発揮できます」

「過分なお言葉、痛み入ります。それに私が力を発揮できるとしたら周囲の助けがあればこそです」


「ウィリアムさん、言葉が堅いですわ」

 また殿下に怒られてしまった。

「ウィリアムさんは相変わらず謙虚ですが、あなたのスキルには大きな可能性があると私は思っています。さらに工房の皆さんやドワーフやエルフの皆さんも異能をお持ちです。皆さんが力を合わせることで、きっと豊かな領地になりますわ」


 それから王宮の中庭のガゼボで、僕らはフローラ殿下といろんなことを話した。

 ソフィーが複合魔法を使えるようになった話になると、殿下は「それは凄いわ」と褒めてくれて、妹は嬉しそうだった。

 プラスチックワームの話になると、レティが虫が苦手なことに「万能なスカーレットさんも苦手なものがあるのね」と殿下は驚き、レティは渋い顔をする。


 話し込んでいるうちに時間はあっという間に立ち、夕方になった。

「まあ、もうこんな時間。まだお話をしたいのに」

 殿下はそう言ってくださり、僕らも名残を惜しみながら王宮を辞去した。


 翌日は王都で人気だというカフェに行くことにした。

 オリヴァーは王都のレバント商会本店に行くから別行動だ。

 今日行くカフェは、以前から行ってみたいと思っていたお店だ。


 王都に行く前にその話をすると、レティも食いついてきた。

「あら、あのお店? 私も興味を持っていたのよ」

 甘い物が好きというのは、レティと僕の数少ない共通点だ。


 人気店だから予約がないと入れないから、王都に着いた日にフェアチャイルド家の王都の使用人にお願いして、予約を入れてもらっていたんだ。

 馬車に揺られながら王都の道を貴族街から商業街に向けて移動する。


 お店のドアを開けると、甘い匂いが漂ってくる。

 予約しておいた席に店員さんが案内してくれた。

 高価なガラスをふんだんに使った大きな窓からは王都の通りを行く人たちが見える。


 店員さんが持ってきてくれたメニューをみると、美味しそうなものがいろいろ載っている。

「うーん、ベリーのタルトも美味しそうですし、プディングもありますし、定番のスコーンも捨てがたいです」

 ソフィーは頭を悩ませている。


 熟慮の末にソフィーはラズベリーのタルトを注文し、レティはサマープディングを頼んだ。

 サマープディングはブラックカラントやブルーベリーなどのベリー類を使った色鮮やかなお菓子だ。


 僕はスコーンを選んだ。元の世界にいるときから好きだったんだ。

 しばらくして、注文したスコーンが運ばれてきて香ばしい匂いを嗅ぐと、幸せを感じる。


 そしてスコーンには、たっぷりとクロテッドクリームとジャムを付ける。

 そういえば、どちらを先に載せるかという論争があったんだっけ。

 僕はクロテッドクリームを先に載せる。これは確かデヴォンの流儀だ。コーンウォールではジャムを先に載せるんだったかな。


 美味しいお菓子を食べた後は、王都の市場に行った。

 やはり大勢の人が集まっている。

 警備する家臣たちには苦労をかけてしまうけれど、来てみたかったんだ。


 さすがに王都の市場は規模が大きくて、西部では見たことのないものがたくさん売られている。

 外国産の食材を売るお店が集まっているところに行くと、色とりどりの野菜や果物を置いていた。

 見ているだけでも楽しいな。


 食材のお店をひととおり見たなと思ったところで、少し離れた目立たないところにある小さなお店が気になった。

 歩いて行ってみると……。


 麻の袋に褐色をした小粒の穀物が詰められている。

 これは、もしかして。

 鑑定してみると『アロス:南方で栽培される穀物』と出た。

 アロス? スペイン語かな? どこかで聞いた気がする。


 店主に断りを入れて、手に取ってみると、間違いない。

 これは米だ。

 そう思って改めて鑑定すると、『アロス:南方で栽培される穀物。米によく似たもの』と出た。


 ああ、やはり。

 いくらパンやパスタが美味しくても、日本人はやはり米が恋しい。

 僕はその場に立ち尽くした。


「どうしたの? ウィル」

「兄様、泣いているのですか?」

 思わず涙が零れていたようだ。


「ああ、これは僕が元いた世界で主食だったものなんだ。ずっと食べたいと思っていたんだよ」

「そうだったのですか」

「見つかって良かったわね」



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