第123話 西部の伝統菓子と王女との再会

 夕食は王都の屋敷の料理長が腕を振るって、ローストビーフとスズキのグリルをメインにした豪華な料理を作ってくれた。

 デザートにはバラ・ブリスが供される。


 バラ・ブリスはアルビオン王国西部の伝統的なお菓子で、干しブドウやクルミなどのドライフルーツを紅茶に漬け込んだものをたっぷり生地に入れて、シナモンの風味を効かせて焼いたものだ。

 ケーキともパンともつかない微妙なものだけど、僕の大好物だ。


 ちなみにオリヴァーがアカシックレコードで得た知識によれば、バラ・ブリスは元いた世界ではウェールズの伝統菓子らしい。

 脳に大きな負担のかかるアカシックレコードだけれど、少しずつ使いこなせるようになってきたようだ。

 魔法銃の設計図を見つけるのは難しいようだけれど、断片的な情報は見つかり始めたとオリヴァーは言っていた。


 食事の終わり頃に料理長が挨拶に来てくれた。

 料理も美味しかったし、デザートも凄く良かったと伝えたところ、

「お口にあって良かったです」と料理長は微笑んだ。


「王都で流行している新しいお菓子にすることも考えたのですが、お客様のスカーレット様は西部の伯爵令嬢ですし、ウィリアム様の好物だと聞いていましたので、バラ・ブリスに致しました」

 なるほど、お客にあわせてメニューを考えてくれたんだね。


 翌朝、僕らは馬車に乗ってリンクスター城に向かった。

 白鳥城の異名をとる優美な城の玄関に着くと、衛兵に用件を告げる。

 話は通っていたようで、すぐにメイドさんが現れて案内してくれた。


 城内を歩いていると、どこか見覚えがある気がしてきた。

 メイドさんに聞いたら、やはり初めてフローラ殿下に会ったガゼボに向かっているようだ。


 中庭に着くと、フローラ殿下は椅子から立ち上がって小走りでやってきた。

「お久しぶりですわ、レティさんにソフィーさん」

「「お久しぶりです、フローラ殿下」」


 三人は互いの手を取り合って再会を喜んでいる。

 うんうん良かったねと思いながら見ていると、王女殿下はこちらに向き直った。

 あれ、少し機嫌が悪い気がする。


「ウィリアムさんもお久しぶりですわ」

「ご無沙汰しております、フローラ殿下」

「本当ですわ、転移魔法が使えるのですから、もう少し顔を出しても良いと思います」

 なぜか殿下に叱られた。

 その後で殿下はオリヴァーともにこやかに挨拶をしたのに、なぜ僕だけ?


 再会を喜んだ後はみんなでガゼボの椅子に腰かけ、近況を話した。

「まあ、ではレティさんもソフィーさんも未開地の探索に参加しているんですね?」

 頷く二人に王女殿下は憂い顔を見せた。


「わたくしも一緒に行きたいのですが、戦闘は苦手ですから足手まといですわね」

 いや、そういう問題じゃなくて、王女殿下が危険な場所に行くことを陛下は許可しないと思うんだが。

 でも、それを言うとまた殿下の機嫌が悪くなりそうな気がしたので黙っておいた。


「それでは私の近況をお話ししますわ。皆さんの冒険に比べると地味な活動ですが、内政に商業スキルを活かそうとしています」

「殿下はよく頑張っておられると商人仲間から聞いております。それは地味であっても民を豊かにする道に通じると思います」


「ああ、オリヴァー先生のおっしゃるとおりですわね。地味だと卑下してはいけませんでした。宰相の探してくれた商業スキルを持つ者たちに、商人の方々に教師になってもらってスキルを伸ばす訓練をしています」


「ただ、商人に教わることに抵抗感のある者たちもいますし、商業スキルは役に立たないという固定観念を覆すのは骨が折れますわ」

「剣と魔法に固執する者は多いですから」

「レティさんの言うとおりですわ。頭の固い者が多いのですよ」

 殿下は溜息をついた。


「ですが、ウィリアムさんのおっしゃったとおり、商業スキルを伸ばすことで、仕事の効率が格段に上がってきましたわ」

「商業スキルの良さが発揮されて良かったです」


「ええ、王国各地から報告される膨大なデータを把握できるようになりつつありますの」

 おお、それは大きな成果だ。

 アルビオン王国は大小多くの領地に分かれ、よく言えば分権的にそれぞれの領主が治めていて、悪くいえばバラバラに統治されている。

 王国全体の状況はこれまできちんと把握できていないようだった。


「オリヴァー先生に商業スキルの伸ばし方を教えてもらったことで、内政を担当する者たちの商業スキルを大きく伸ばすことができました。感謝いたしますわ」

「もったいないお言葉です。王家からは過分な報酬も頂いております」

「貴重なノウハウを教えてもらうのですから、過分ではなく当然の報酬ですわ」


「ところで、皆さんは王都の観光はされたのかしら?」

「はい、行ってみたかったアクセサリーのお店に昨日行きました!」

「それは良かったですわね、ソフィーさん。アクセサリーのお店だと貴族の娘も多そうですけれど、ウィリアムさんには寄ってきませんでしたか?」


「誰も僕には寄ってきませんでしたよ。何だか気の毒そうな視線は感じましたけど」  

「まったく、ウィルが南の未開地を領地にもらうと聞いた途端に距離を置こうとするなんて。恥ずかしくないのかしら?」

 レティは怒ってくれるけれど、僕としてはありがたい。



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