第2話 辺境伯の次男
そして僕は、新たな人生をスタートした。
生まれた家は、大陸各国の中でも長い歴史を有するアルビオン王国で辺境伯を拝命しているフェアチャイルド家だ。その次男のウィリアムというのが、新しい僕の名前だった。
前世のことを思い出したのは、6歳の誕生日だ。
朝起きたら急に前世の記憶が流れ込んできたから、びっくりした。
記憶が戻るのは少し大きくなってからと神様に予告されていたことも思い出したけれど、驚くことは驚くものだ。
そして自分の手を見ると小さくて、立ち上がってみると背が低くて、ああ転生したんだなと実感した。
新しい両親は良い人たちだった。
父のセオドアは文武両道で名領主と言われていて、家族を大切にしている。金髪碧眼で、絵にかいたような貴族らしい容貌をしている。
母のメアリーは愛情あふれる優しく美しい人だ。
僕の髪が銀色なのは母親の遺伝らしい。
顔は父親に似ていると言われるけれど、美味しい物をたくさん食べているせいか、僕だけ体型はぽっちゃりしてしまっている。
記憶が戻ったので、この世界のことを知るために本を読みたいと思い、両親に頼んでみた。
「父上、母上、できれば図書室の本を読みたいのですが。」
「おお、まだ6歳なのにもう本を読みたいのか。ウィルは偉いね。」
「あらあら、ウィルは勉強熱心なのね。」
ウィルというのは愛称だ。前世で欧米だと名前ごとに愛称があると聞いたけれど、この世界はそれに近いみたいだ。
辺境伯家の館の図書室には機密情報もあるらしく、その前には衛兵がいる。
でも僕がとことこ歩いて行くと、「お話は聞いております」といって扉の鍵を開けてくれた。
この世界の言葉は記憶のないうちに覚えていたので助かっている。
毎日本を読んでいるうちに、いろいろなことが分かってきた。
この世界には魔法があり、魔物がいる。
図書室には強大な魔物を騎士と魔術師が協力して倒す英雄伝もあって、ああ神様の言うとおり『剣と魔法の世界』なんだなと思った。
地理の本を読むと、我がフェアチャイルド辺境伯家は魔物の出現する西の大森林に隣接する領土を有していて、アルビオン王国の西の守りを担う名門貴族だということが分かった。
最近は大きな戦争はないけれど、昔にあった大きな戦争で先祖が手柄を立てて爵位を得たらしい。
歴史の本によれば、我が家が魔物に備えるために独自の騎士団の保有が認められているのは、歴代の当主が王家から信任を得たからのようだ。
うん、将来も安泰そうで安心した。
今は亡き先代当主である祖父の備忘録を読むと、王都の貴族の中には田舎貴族と陰口をいう者もいるようだけど、王都でも上級貴族ほど敬意をもって接してくれるみたいだ。
朝食と夕食はできるだけ家族揃って食べるのがフェアチャイルド家の習慣だ。
食事の準備ができるメイドが呼びに来てくれてダイニングに向かう。
辺境の地にあっても、名門貴族らしくダイニングの天井にはフレスコ画が描かれ、細 長いテーブルには煌めく銀食器が並べられる。
朝、自分の席に着くと、向かい側に座る金髪碧眼の美少年に挨拶をする。
「おはようございます、エディ兄上。」
「おはよう、ウィル。今日もいい天気だね。」
笑顔で答えてくれたのは、今年10歳になる兄のエドワードだ。
優秀で性格もよく、フェアチャイルド家は安泰だと言われている。
顔は似ているような気もするけど、ぽっちゃりしている僕と違い、兄上はスマートだ。
少し遅れて、僕の隣りに少女が嬉しそうに座ってきた。
「おはようございます、おにいさま。」
「おはよう、ソフィ―。」
この金髪に青い目の天使は、妹のソフィア。愛称はソフィ―。
僕より2つ下の4歳。年が近いこともあって、よく懐いてくれている。
王国の西を守る名門貴族というのは、田舎でのんびりというのとはずれている気もするけど、良い家族に恵まれたことを神様に感謝だ。
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