第3話 消えた文化祭の衣装【出題編】

青羽高校では、来週末に控えた文化祭の準備が大詰めを迎えていた。体育館の一角では、演劇部が明日のリハーサルに向けた準備を進めている。衣装係の山田理香は、大きな段ボール箱に入った衣装を運びながら、部員たちに声を掛けた。


「みんな、衣装はこれで最後の仕上げよ!明日のリハーサルに間に合うように急ぎましょう!」


段ボールを開けると、色とりどりの衣装がぎっしりと詰まっている。演劇部の舞台は、シンデレラをモチーフにしたオリジナルストーリーで、ドレスやスーツ、アクセサリーなどが揃えられていた。理香は衣装リストを手に、すべてが揃っているかを確認し始める。


「これで……王子様の衣装もOK。シンデレラのドレスも……えっ?」


彼女の手が止まった。リストに記載されたシンデレラの青いドレスが、どこにも見当たらないのだ。


「ちょっと、みんな!シンデレラの衣装が見つからないんだけど!」


理香の声に、部員たちが次々と段ボールを確認し始めたが、青いドレスはどこにも見当たらない。


演劇部内は一気に騒然となった。青いドレスは、今回の舞台で最も重要な衣装であり、それがないとリハーサルどころか本番に支障をきたす。


「昨日の夜、ちゃんと保管しておいたはずよ!誰か勝手に持ち出したの?」

理香は必死に思い返しながら叫んだ。


「そんなことないよ!鍵はちゃんとかかってたし……もしかして、誰かが鍵を開けたのかな?」


衣装室の扉は部外者が入れないよう鍵が掛かっている。それなのに、衣装が消えたのは不可解だった。理香は生徒会に相談することを決め、その日の夕方、瑠奈と美羽に状況を説明した。


夕方、生徒会室で話を聞いた瑠奈は、眉間にしわを寄せながらリストを眺めていた。


「理香さん、衣装室の鍵は誰が管理しているの?」


「基本的には私ともう一人、演劇部の副部長が管理しています。でも、鍵を貸し出した覚えはないんです!」


「鍵が盗まれた可能性もあるわね。それに、衣装が消えたのは昨夜から今朝にかけて……。誰かが夜の間に忍び込んだ可能性もある。」


瑠奈は机の上に鍵を置きながら、美羽に目を向けた。


「美羽、まずは衣装室を調べてみましょう。鍵がどうやって使われたのか、何か手掛かりがあるはず。」


「はい!すぐに行きましょう!」

美羽は緊張しつつも、やる気に満ちた表情で答えた。


夜の校舎は静まり返り、薄暗い廊下を二人の足音が響く。衣装室に到着すると、ドアにはしっかりと鍵が掛かっているのが確認できた。


「確かに、鍵は閉まっている。でも……何か妙ね。」

瑠奈はドアの周囲を指でなぞり、小さな傷のような跡に気付いた。


「先輩、この傷って何か意味があるんですか?」


「もしかすると……誰かが合鍵を使って開けた可能性があるわね。」


瑠奈は小さく頷き、扉を開けて中に入った。部屋の中は整然としているが、肝心の青いドレスだけが消えている。


「どうして、これだけが消えたのかしら。衣装は全部ここにあったはずなのに……。」

瑠奈の呟きに、美羽は困惑した表情を浮かべた。


翌日、文化祭準備が進む中、瑠奈と美羽は演劇部の部員たちへの聞き取りを開始した。青いドレスが消えた原因を探るため、部員たちの行動や目撃情報を洗い出すことにしたのだ。


最初に話を聞いたのは、副部長の井上奈々子。衣装室の鍵を管理しているもう一人の人物であり、最も重要な情報源だった。


「奈々子さん、文化祭準備の最終確認で衣装室の鍵を使用したのはいつですか?」

瑠奈の落ち着いた声に、奈々子は少し考え込んでから答えた。


「たしか……おとといの夕方、最後に鍵を閉めたのは私です。その後、鍵は理香に渡しました。理香が最後にリハーサルの準備をしていたはずです。」


瑠奈は静かに頷いた。


「鍵はしっかり管理していたと。でも、昨日の夜から今朝にかけて、誰も鍵を使った覚えはないんですね?」


「はい、少なくとも私は鍵を貸し出した記憶はありません。でも、他の部員たちが何かしていたかまでは……」


奈々子は歯切れが悪く、少し視線を逸らしているようだった。


次に話を聞いたのは衣装係の田辺翔。ドレスの保管状況に詳しい彼は、焦ったような表情で話し始めた。


「昨日の夜、僕は衣装室の近くにいたんですけど……特に怪しい人影は見てないです。でも、誰かが廊下を歩いている音は聞こえました。」


「それは誰だったか分かりますか?」

瑠奈が尋ねると、翔は首を振った。


「わかりません。ただ、衣装室の方向から出ていく足音が体育館のほうに向かってました。」


体育館――。瑠奈はその言葉に反応し、眉をひそめた。


「衣装室から体育館に向かった?その時間帯、演劇部以外に文化祭の準備をしている人たちはいましたか?」


「えっと……たぶん生徒会の誰かが準備をしてたはずです。でも具体的には誰だか……」


瑠奈と美羽は生徒会室に戻り、得た証言を整理していた。


「奈々子さんの話では、鍵を使ったのは理香が最後。でも田辺くんの証言だと、夜中に衣装室の近くで足音を聞いたと言っていたわ。」

瑠奈は机に置かれた鍵を見つめながら、深く息を吐いた。


「もし鍵が正しく管理されていたなら、誰も衣装室に入れないはずよね。だとしたら、やっぱり合鍵が使われた可能性が高い……。」


美羽はノートにメモを取りながら、首をかしげた。


「でも、合鍵を作るなんて手間のかかることを、どうして犯人がしたんでしょうか?」


「それが、この事件の核心に繋がっているのかもしれない。そもそも、青いドレスだけを消したのはなぜか。その理由を突き止めないといけないわ。」


そのとき、ふと美羽が思い出したように声を上げた。


「そういえば、田辺くんの言ってた体育館って、何か関係があるんでしょうか?青いドレスが体育館に運ばれていたとか……」


「体育館の方向に足音が向かったのが本当なら、確かに何かが隠されている可能性がある。よし、今から体育館を調べましょう。」


日が沈む直前、二人は体育館に到着した。中は静まり返り、少しひんやりとした空気が漂っている。


「理香さん、体育館を使ったのは昨日の午後が最後だと言っていたわね。」

瑠奈は体育館の隅を歩きながら、注意深く周囲を観察する。


そのとき、美羽が大きな箱の裏側に何かが挟まっているのを見つけた。


「先輩、これって……!」


美羽が拾い上げたのは、青い布の切れ端だった。それは間違いなく、消えたシンデレラのドレスの一部だった。


「間違いないわ。これが証拠になる。」

瑠奈は布切れを手に取り、鋭い眼差しで言った。


「青いドレスは意図的にここに運ばれた。そして、この事件の動機は……単なるいたずらではない。」


美羽は瑠奈の言葉に息を呑んだ。


体育館で見つかった青いドレスの布切れを持ち、生徒会室に戻った瑠奈と美羽。瑠奈は机に布切れを置き、再び衣装室の鍵を手に取った。


「美羽、この布切れがここで見つかったということは、ドレスは意図的に移動させられた可能性が高いわね。」


「でも、犯人はどうしてわざわざ体育館に持っていったんでしょうか?」

美羽は首をかしげた。


瑠奈は鍵を眺めながら、小さく息をついた。


「その答えを導き出すには、鍵の管理状況をもう一度確認する必要があるわ。この鍵の動きが、すべての謎を解く鍵になるはず。」


その夜、瑠奈は再び副部長の奈々子を呼び出した。鍵の管理に関する話をさらに詳しく聞き出すためだ。


「奈々子さん、あなたが鍵を最後に管理した時間を教えてください。そして、その後の動きについて、もっと詳しく聞かせてくれる?」


奈々子は困ったように視線を下げながら答えた。


「たしか、夕方6時くらいに鍵を理香に渡しました。その後、私はすぐに帰宅したので……鍵がどうなったかはわかりません。」


「帰宅した時間は?」

瑠奈の問いに、奈々子は少し戸惑いながら言った。


「7時頃です。」


「なるほど……。奈々子さん、最後にもう一つだけ確認させて。衣装室に合鍵は存在しますか?」


奈々子は驚いたように目を見開いた。


「い、いえ!合鍵なんてありません。少なくとも、私は作った覚えはないです!」


その答えに、瑠奈は一瞬黙り込む。だが、その視線は奈々子の動揺を鋭く見抜いていた。


奈々子が去った後、瑠奈は生徒会室で鍵をじっと見つめていた。布切れ、証言の矛盾、そして体育館に向かった足音――すべてが一つに繋がり始める。


「美羽、この事件には大きな違和感がある。もし合鍵が使われたのなら、それを作ったのは内部の人間。だとしたら、犯人は衣装室の管理に直接関わる人物……つまり、奈々子さんか、理香さんのどちらかという可能性が高いわ。」


「え!?理香さんも疑われてるんですか?」


「もちろん。彼女が管理していた時間帯にも、事件を起こす余地はあった。だけど……」

瑠奈は考え込むように視線を下げた。


「体育館に布切れを置いた意図がわからない。ドレスを隠すならもっと簡単な方法があるはずよ。それをあえて見つかる場所に置いた理由。それが犯人の動機に繋がるはず……。」


美羽は不安げな表情を浮かべながら呟いた。


「じゃあ……犯人は、何かを伝えようとしてるってことですか?」


瑠奈は無言のまま、青い布切れを指先で掴み、小さく頷いた。


「真相を明らかにするのは、今残された証拠と……明日、もう一度全員に話を聞く必要があるわね。すべてのピースが揃えば、この事件の全貌が見えてくるはず。」


読者へのメッセージ


「消えた青いドレス、体育館での布切れの発見、そして衣装室の鍵に関する矛盾――果たしてこの事件の真相は何なのか?犯人が仕掛けた意図とは?解答編は明日10時に投稿します。ぜひコメント欄で皆さんの推理をお聞かせください!」

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