【一話完結】刑事総務課の羽田倫子は、安楽イス刑事でもある その四
久坂裕介
第一話
木々の緑も
「だからね、この書類はこう書くの」と私は以前、私が書いた
「ありがとうございます、倫子さん! また分からないことがあったら、聞いてもいいですか?」
「もちろんよ。何でも聞いて」
「ありがとうございます!」と新人は、自分の席に戻った。
私はこの仕事を始めて、三年目になる。だから大体の仕事は、覚えた。新人に、教えられるほど。それにしても
私はそのために警視庁の職員になったのだが今は、仕事よりも小説のことを考えている時間の方が長いような気がする。だがそれは、マズイような気がする。あはははは……。
うーむ、ここは『
と私が初心に帰っていると、スマホが鳴った。見てみると、『
それは新藤刑事は、私の秘密を知っているからだ。私が『
だが今のところ新藤刑事は、そのことを言いふらしてはいない。実は私は新藤刑事たちが解決できない事件にアドバイスをして、事件を解決している。だから新藤刑事は私に利用価値があると思って、言いふらしていないのかも知れない。
私は推理小説を書いているので、あらゆる事件に
そう決意すると私は
私が新藤刑事と二人きりでコソコソと話をすると、
そしてショートカットの髪型が似合う由真さんは、いつも通りニコニコしていた。更に新藤刑事もいつも通り、ムダにイケメンだ。
はっきり言って新藤刑事は、イケメンだ。軽くパーマがかかった髪と、
だが彼は、性格に問題がある。口が軽くて、いつも根も葉もないウワサ話をしている。私はそういう人を、信用しない。だから私は新藤刑事を、ムダなイケメンだと思っている。
それに比べて、私は完璧だ。髪型はセミロングで私によく似合っていて、目もパッチリとしていて声も可愛い。
そして刑事総務課の仕事もできるし、さっきのように新人にも仕事を教えて、おそらく
私はパイプイスに座ると、ふんぞり返って右手の人差し指で机を軽く
また今日も新藤刑事に呼び出されてイラついた気持ちが
「私が呼ばれたっていうことは、また解決できない事件が起きたんですか?」
すると新藤刑事は、低くてよく通る声で答えた。
「ああ、そうだ」
私は思わず、ため息をついた。はあ、
だが、私が知らない警視庁内の情報を教えてくれるというなら話は別だ。それを事件を解決させるためのアドバイスの、報酬として教えてくれるなら、教えてあげても良い。だから私は、聞いた。
「今回の報酬は、何ですか?」
そう聞かれた新藤刑事は、答えた。
「事件現場に、お前を連れて行ってやる。それで、どうだ?」
私は思わず、それに食いついた。じ、事件現場?! それは良い! 事件現場に連れて行ってもらえば、よりリアルな推理小説を書ける! 刑事たちが実際にどうやって捜査するのか、鑑識作業は実際にどうやっているのか。それが分かれば、よりリアルな推理小説を書ける! だから私は、聞いてみた。
「今回の、解決できない事件は何ですか?」
「放火事件だ」
「なるほど、放火ですか……」
放火事件。それを
●
都内にある
そしてすぐに、警察と消防が出火原因を調べた。その結果、出火原因は一番激しく燃えていた洗濯機につながっている、コンセントだということが分かった。だが調べた結果、灯油やガソリンなど火事の原因になりそうなモノは
警察と消防は一時、原因はトラッキング
だが更に調べると、
どういうトラブルかと言うと、いわゆる
とにかく夜中に大きな音を出されては、富彦夫婦は眠れない。なので富彦は、警察に相談した。すると警察は敏雄に、夜中は大きな音を出さないように注意した。すると状況は、悪化した。
敏雄は大音量の音楽を出すだけでなく、富彦の家にきて大声を出すようになった。『お前の方が、うるさい』、『警察に
警察が防犯カメラの映像を見てみると火事が起きた時間帯に、洗濯機が置いてある場所に向かう敏雄の姿が写っていた。右手には500mlほどの大きさの、ペットボトルを持っていた。そして敏雄が戻ってきてから、煙が写っていた。
警察は当然、敏雄から
そして捜査は、そこで行き
警察は初め、敏雄が持っていたペットボトルの中身が灯油かガソリンだと考えた。だがそれは、火事の原因の調査と
●
そこまで説明を聞いた私は、
「なるほど……」
そして由真さんが
「どうだ、分かったか、敏雄がどうやって富彦の家に火を付けたのか? それとも敏雄は、犯人じゃないのか?!」
相変わらず新藤刑事は、事件を解決させようとなると
「いえ、犯人は敏雄ですよ。もちろん」
すると新藤刑事は、疑問の表情になった。
「そ、そうなのか?! じゃあ一体、どうやって火を付けたんだ?!」
だから私は、新藤刑事に教えてあげた。
「もちろん、敏雄が持っていたペットボトルに入っていた水を使ったんですよ」
すると新藤刑事は再び、疑問の表情になった。
「は? 水を使って家に火を付けた? どうやって?」
「もちろん、トラッキング現象を使ったんですよ」
「トラッキング現象って、あれか。コンセントとプラグのすき間にホコリがたまって、火が出るやつか。でも、どうやって?……」
まだ分からない新藤刑事に、私は少しイラついた。
「とにかく犯人は、敏雄です! 今すぐに捕まえてください!」
すると新藤刑事は、部屋から出て行った。
「わ、分かった。敏雄から
それを聞いて
「でも、おかしな事件ねえ~。水を使って家に、火を付けるなんて~」
なので私は、答えた。
「トラッキング現象ではコンセントとプラグのすき間にホコリがたまって、それが湿気を吸って火が出ます。でも火を付けようと思えば、ホコリは必要ありません」
そうして私も部屋から、出て行った。
●
昼休み。私は刑事総務課の自分の席で、まったりとしていた。昼ごはんに食べた、ランチを思い出して。何と今日のランチのメニューは、おにぎりのバイキングだった。しかも、
私は、海苔で巻いてあるおにぎりが好きだった。パリッと歯ごたえがあり、食べると思わず私が好きな海を
そして、
そしてちょっと、おにぎりに
それにしても、おにぎりのバイキングは最高だった。ぜひ、またやって欲しい。あー、おにぎりがある国の日本人で良かったー! 私は食堂を出る時、思わず食堂のオバちゃんに右手の
そうして今日のランチに満足しながらまったりしていると、推理小説のアイディアが浮かんできた。私は今、異世界を
浮かんだアイディアは、こうだ。異世界と言えば、やはり勇者と魔王。普通は
と私がアイディアをスマホにメモしていると、画面にメッセージが表示された。『新藤だ。今すぐに、いつものところにきてくれ』。私は思わず、こ
●
私が鑑識課の隣の部屋に入るとやはり、由真さんと新藤刑事がいた。新藤刑事は
「火災犯捜査係の刑事が敏雄に『お前は水を使って、富彦さんの家を放火したんだろう?!』と迫ると、敏雄は観念した表情になって
ここでちゃんと説明しないと事件現場の見学という報酬がもらえないので、私は
「それは新藤刑事の話を聞けば、分かりますよ。まず火事の原因は、灯油やガソリンではない。新聞などに火を付けた訳でもない。それなら警察と消防が予想した通り原因は、トラッキング現象ですよ。トラッキング現象はそもそも、コンセントとプラグのすき間にホコリがたまって、このホコリが湿気を吸いプラグの両極間で火花放電が起こり発熱して発火するという現象です。でももし、わざと出火させようと思ったらホコリなんて
それを聞いた新藤刑事は、
「なるほど、そういうことか……」
新藤刑事が
「それじゃあ、報酬をくださいよ! 事件現場を見学できるという、報酬を!」
だが新藤刑事は、あっさりと答えた。
「ああ、それな。上司に聞いてみたんだが、捜査に関係のない奴を現場に連れて行くことはできないと言われたんだ。てへ」
や、やっぱりこうなるのか……。分かっていた。こうなるんじゃないかということは、分かっていた。でも事件現場の見学という報酬に私は、目が
「それじゃあ俺は、まだ仕事があるから。それじゃあお疲れ、倫子ちゃん」
私は落ち込みすぎて、『うるさーい! お前が倫子ちゃんって呼ぶなー!』と言い返すこともできなかった。そうしていると、由真さんが声をかけてきた。
「今日もお疲れさまでした、倫子ちゃん~。また事件を一つ、解決したわね~」
それでも私は、落ち込んでいた。何度も何度も新藤刑事に
「ねえ、倫子ちゃん~。私と一緒に、
「も、最中ですか?!」と私は、反応してしまった。やっぱり女子は、甘いモノが好きだ。もちろん、私も。だから、答えた。
「はい、食べます。最中を、食べたいです!」
それを聞いた由真さんは、告げた。
「実は鑑識課の女子職員が旅行に行って、お
そう言ってお茶を淹れに行く由真さんの姿は、私には天使に見えた。いたよ、天使が。この
そうして由真さんが淹れてくれた美味しいお茶と最中を食べた私は、もう落ち込んだことを忘れていた。ありがとう、由真さん。今日もがんばれるのは、あなたのおかげです。
こうして事件は、無事に解決した。だが刑事総務課の自分の席で私は、ため息をついた。どうして敏雄は、放火なんかしてしまったんだろう。その理由は、私にもよく分からない。元々は敏雄が、
とにかく放火も、立派な犯罪だ。犯罪なんか起こしたら警察に捕まってメディアに
【一話完結】刑事総務課の羽田倫子は、安楽イス刑事でもある その四 久坂裕介 @cbrate
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