【新解釈桃太郎】n回目の殺人

雨宮 徹@n回目の殺人🍑

n回目の殺人

 昔々、あるところにお爺さんとお婆さんがいました。しかし、お爺さんとお婆さんは、家の中で困り果てていました。



「婆さん、ワシらはまたしても殺人をしてしまったらしい。ご近所さんにバレないように、死体を隠さねばならん」



 お爺さんの眼差しは真剣でした。殺人がバレれば、罰として処刑されるかもしれないからです。



「そうねぇ。あやめてしまったのは子供だから、『未来ある子供を殺すなんて、人の心がない』と非難されるに違いないわ」



 お婆さんは、べっとりと手についた血を洗い流そうとしますが、残念ながら家に十分な水はありません。



「爺さん、今回の殺人を隠蔽しなければなりません。あなたは、死体を山に埋めてきてくださいな。私は、この血を川の水で洗い流して来ますから」


**


 お爺さんは山に着くと、スコップを使って穴を掘りはじめました。体力がなく苦労しましたが、埋めるのは子供のため、穴が小さくて済んだのが不幸中の幸いでした。



「ふう、これで安心じゃ。あとは、死体が朽ち果てるのを待つだけ。しかし、何年かかるやら」



 お爺さんは、ひとりごちた。



「婆さんは、うまく血を洗い流せただろうか」


**


 お婆さんは、川に着くと必死に手を洗いました。血は徐々に落ちていったものの、川は赤く染まってしまいました。



「この赤い水をどうやって誤魔化すかが難しいわね」



 お婆さんは、「うーん」と唸った後に、「この付近には銅山があるから、銅が混ざったことにしましょうか」と一つの考えに至りました。



「爺さんは、うまく死体を埋められたのかしら」



 そんな心配をしていたお婆さんの前に、川の上流からどんぶらこと桃が流れてきました。



「まあ、立派な桃だこと。殺人を隠蔽したご褒美に、爺さんと二人で食べましょうか」



 お婆さんは大きな桃をすくい上げると、腰を痛めないように注意しつつ、家に持ち帰りました。


**


「爺さんや、川に行ったら立派な桃が見つかりました」



 お爺さんは、顔をしかめました。おそらく、嫌な予感がしたのでしょう。



「まさかとは思うが、その桃を切り分けるのかい?」



「それしかないでしょう。大丈夫ですよ、今回は」



 お婆さんは大きな包丁を台所から持ってくると、ノコギリの要領でギコギコと大きな桃を切りはじめました。すると、なんてことでしょうか。桃の中から血が流れはじめたのです。



「婆さん、これは……」



「もしかして、またですかねぇ」



 お婆さんは、のんびりとそう言うと、桃を切る作業を再開しました。切るごとに血がドバドバと流れてきます。何かがおかしいです。



「もうそろそろ、桃が半分に割れますよ、爺さん」



 まもなく、スパッと桃が二つに割れました。すると、中には子供が入っていました。しかし、桃を切るときに誤って子供ごと切ってしまいました。ですから、残念ながら子供は息をしていませんでした。



「婆さん、言ったじゃないか。『桃には子供がいるはずだ』と。これでは、また死体を埋めに山に行かなくてはならん」



 お爺さんは大きなため息をつきました。



「婆さん、今度川に手を洗いに行ったら、桃は拾ってはダメだぞ。これじゃあ、何回繰り返せばいいか分からないからのぅ」

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