転生したら異世界テレビ局のADだった件について
@potterman
第1話 異世界転生
「おい」
まず、僕はこの瞬間から間違っていた。
名前で呼ばれることを期待した自分が悪い。この会社では、僕は単なる「おい」だ。
それ以上でもそれ以下でもなく、ただの「おい」なのだ。
上司にこんな呼び方をされている時点で察してほしいが
僕が働いている制作会社はブラックを通り越してダークマターだ。
無限の労働という質量で次々に人が壊れていくダークマター企業。
そして今は人生でもトップレベルでミスが許されない現場に駆り出されている。
そう、ゴールデン番組の特別生放送である。
ディレクターは、生放送直前の編集室でVTRを猛スピードで編集していた。
その横で、僕に告げられたのはこれ以上ない最悪のミッションだった。
(他番組の映像使用許可を取ってこい……だと……?)
それがどれほど無茶な指示か、業界の人ならすぐに理解できるだろう。
普通、他番組の映像使用許可を取るには、
2、3日かけて死ぬ物狂いで走り回り、テレビ局のお偉いさんを探し出し、
彼らの許可をもらうスタンプラリーが必要だ。
それが、3時間で終わるはずがない。
しかも、お偉いさんたちが今テレビ局にいるかどうかすら怪しい。
つまり、僕がやらされるのは、もはや迷宮探索に等しい。
それでも、返事は一つ。
「わかりました!」
この一言以外許されないのが、この業界の掟。
(終わった……。)
無理ゲーすぎる指示を受けた時点で、僕の運命は決まっていた。
ディレクターの一声で、僕は死刑宣告を受けたのだ。
人格は完全に破綻しているが、仕事だけはできるディレクターのことだ。
もし僕がスタンプラリーに失敗したとしても、別の策を用意しているはずだ。
しかし、それを言葉にする勇気などあるわけがない。
なぜなら僕は仕事ができないことで定評の「坂本」いや「バカ本」なのだから。
ディレクターの謎のこだわりに巻き込まれ、無駄な作業を強いられる。
それが、番組ADという職業の宿命だ。
編集部についた僕はさっそくプロデューサーのデスクまで忍び寄る。
「あのぅ~、すみません。」
できるだけ害のない人間であることを全力でアピールしながら、
編集部のプロデューサーに話しかける。
「あ?何、いま忙しいからあとにして。」
明らかに機嫌が悪いプロデューサーは、
キーボードを高速で叩きながら面倒くさそうに言う。
「ドッキリグランプリンのナババマンさんの映像を使わせていただきたいんですが……。」
それでも僕は負けじと要件を伝えた。
言葉が空気中に消えそうになるのを堪えながら。
「※△×〇?◇~!!!!!!!」
突然謎の言語を叫ぶプロデューサー。
その場の空気が一瞬凍りつく。
え、何? 怒ってるの?
それとも、何か別の感情が表に出てしまったの?
頭の中が真っ白になり、気が付いたら廊下に放り出されていた。
「あぁもうだめだ……」
今にも崩れ落ちそうな足取りで、ディレクターのいる編集室へ向かう。
「スタンプラリーの1つ目で詰みました」なんて絶対に言えるわけがない。
そんな確実に訪れるであろう悲劇の未来を想像しながら階段を降りていると――。
「(スカッ)」
あれ?俺、今階段を踏み外した?
勢いよく体が階段に打ち付けられていく。
「ゴンッ、ゴンッ、ゴゴンッ!」
「え?俺死ぬの?『おい』としか呼ばれていないのに?」
目の前が急に真っ暗になった。
そして、俺は意識を手放した――。
あれからどれほどの時間がたったのだろうか。
目を覚ますとそこに広がる光景は・・・・
「伝説の勇者の剣は誰が抜く!?特別スペシャルのお時間です〜!!!」
「今夜のMCを努めます!ドラキュラのタモニです」
いやいやいや・・・なにこれ?
え?意味わからないってまじで
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