第6話 『グリモワール』それは浮遊大陸
「あわわわわわわっ!」
「あんまり口を開いていると舌を噛みますよ。後そんなに強く掴まれると少し痛いです」
「そんなこと言ったってぇ! 怖いものは怖いんですよぉ!」
リペアに『グリモワール』に連れて行くと言われて箒の後ろに乗せられてしばらく、ラブリィレッドは空を飛ぶという初めての経験に戸惑いながら落とされまいと必死にリペアにしがみついていた。
「それでその、『グリモワール』ってなんなんですか!」
空を飛ぶ恐怖から意識を逸らすために、下を見ないようにしながらリペアに質問するラブリィレッド。
「『グリモワール』とは、魔法少女統括協会の本拠地の名称です。一応、魔法少女ランキングみたいなものを発表している組織なのですが。聞いたことはありませんか?」
「あー、ごめんなさい! 無いです!」
「まぁそうでしょうね。基本的にはあまり表に出るような組織では無いですから」
「えっと、それでなんで私がその『グリモワール』に行かなきゃいけないんです?」
「詳しい話はついてからにしましょう。そろそろ見えてきますよ」
「見えてくる? どこにも何も見えないんですけど」
「いいえ、もう見えます」
どういうこと? と首を傾げるラブリィレッド。しかしその言葉の意味はすぐにわかることになる。
「一気に上昇します。しっかり掴まっていてください」
「え、うわぁあああああああっっ!!」
リペアが一気に高度を上げ雲の中に突入する。そして雲を突き抜けたその先でラブリィレッドが目にしたのは、巨大な大陸だった。
「わぁ……」
「やはり驚きますよね。『グリモワール』を初めて見た方は同じような反応をされます」
「あれが『グリモワール』なんですか!?」
「えぇそうです。目の前に広がるあの大陸。その全てが『グリモワール』です」
「すごい……」
思わず感嘆の声を漏らすラブリィレッド。大陸の上には巨大な三つの塔。そしてその周辺には多くの建物。森のようになっている場所まであった。
「まるで街が一つ浮いてるみたい」
「その印象も間違ってはいないと思いますよ。実際、あそこに住んでいる方も多くいますから。私もその一人です」
「あそこ住めるんですか!?」
「生活に必要なものは一通り揃うようになっていますから」
「はへー……すごいですねー」
もはや感心するほかなかった。そうしてリペアと話している内に、『グリモワール』へと突入したラブリィレッドは周囲に同じように飛んでいる少女達がいることに気付いた。
「彼女達もみんな魔法少女統括協会に所属している魔法少女ですよ」
「魔法少女ってこんなにいっぱいいるんですか!?」
「この日本だけでも数千人の魔法少女がいますよ。さて、そろそろ降ります」
ゆっくりと降下していくリペアは、中央にある建物の前に着地した。
「ここが私を連れてきたかった場所ですか?」
「はい。魔法少女統括協会の事務手続きをするための建物です。私の仮眠所とも言います」
「えぇ……」
「仮眠室の寝心地はそこそこいいんですよ。ではどうぞ中へ」
建物の中にはリペアの他にも多くの魔法少女の姿があった。右を見ても左を見ても魔法少女。あらためて魔法少女のための場所にやってきたのだと思ったら、なんとも言えない不可思議な気持ちになった。
(人生ってわかんねぇもんだなぁ。なにがどうしてこんな場所に来てんだ俺は。よりにもよって嫌いな魔法少女の本拠地に来るなんて。あー、なんでもいいからさっさと帰りてぇ)
思わずため息を吐くラブリィレッド。
「どうかしましたか?」
「あ、いえなんでもないです! えっと……それでここで何を?」
「手続きです。あなたを魔法少女統括協会に登録します」
「はぁ、登録。って、えぇ!? 登録!? ちょ、ちょっと待ってください! 登録するってどういうことですか!」
「そのままの意味ですよ。あなたを魔法少女統括協会公認の魔法少女とするために登録します」
「いやいやあの! 私成り行きで魔法少女に変身することにはなりましたけど、また変身するつもりなんてないので!」
「つまり登録するつもりはないと?」
「はい! ありません!」
きっぱりと断るラブリィレッド。ここで流されてしまえば面倒なことになる。そうラブリィレッドの直感がはっきりと告げていた。
「なるほど。では野良魔法少女になると」
「野良……魔法少女?」
「この日本において魔法少女統括協会に所属していない魔法少女の総称です。そういった方も少数ではありますが存在します。その方々はこの『グリモワール』のルールに縛られないという利点はありますが、同時に恩恵を受けることもできません。それでもよければ」
「な、なんか妙な言い回しですけど。とにかく私は――」
「ではこちらをどうぞ」
「所属するつもりは……って、なんですこれ? 修繕費?」
「はい。今回あなたとあの怪人の戦闘によって引き起こされた家屋や道路の修繕にかかった費用の概算です。多少上下するでしょうが、それくらいかかるものと思ってください」
「一、十、百……って、一千万円!? そんなにかかるんですか!? っていうかなんなんですかこれ! 私こういうのあんまり詳しくないですけど、絶対ぼったくりじゃないですか!」
「これでも抑えた方ですが。即日修繕するのに魔法を使用していますので、それなりに費用はかかります。こちら期日までにお支払いするようお願いします。ではもう帰っていただいて結構です」
「ちょ、まっ! 待ってください!! これ……マジですか?」
「マジです」
「大マジですか?」
「大マジです」
「払えるわけないでしょうこんな金額!!」
「そうですね。普通なら払えないと思います。ですが、魔法少女統括協会に所属すれば話は別です」
「え?」
それは悪魔の囁きだった。
「所属してくださるだけで修繕費の九割をこちらで負担しましょう。もちろんそれだけではありません。魔法少女統括協会は所属している魔法少女の皆様にお仕事の斡旋もしています。ちなみに報酬の目安はこれくらいです」
「こんなに貰えるんですか!?」
リペアが提示した報酬は目が飛び出るほどに多かった。
「はい。どうですか?」
「これだけの報酬が貰えたらこの借金を返すだけじゃなくて、他にも色々使えるかも」
思わずゴクリと息を呑むラブリィレッド。
「さぁどうしますか? 所属するか、しないか。判断はあなた次第です」
「悪魔ですね。本当に……」
「ふふっ、悪魔ではなく魔法少女ですよ。私も、あなたも」
こうしてラブリィレッドは半ば無理矢理『グリモワール』に所属することになった。
全ては背負ってしまった借金を返すために。
《ラブリィレッドの借金残高:1,000,000円》
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