魔法少女嫌いの少年が魔法少女に選ばれたら

ジータ

第1話 魔法少女嫌いの少年

「この世界はオレ様達のものだぁああああっっ!!」


 派手な爆発が巻き起こる。その中心にいるのは異形の化物。人の言葉を話しながら、人とは違う存在。彼らはヴィランと呼ばれる者達。異なる世界からこの世界を侵略するためにやってきた異形の存在だ。その体躯は巨大で、軽く三メートルは超えているだろう。トカゲを思わせる顔、ギョロリとした眼が人々を見下ろしている。

 ヴィランの登場に驚く人々。しかし、その直後にヴィランの前に降り立つ存在が二つ。

 リンゴを思わせる真っ赤で華美な装飾の衣装を着た少女と、レモンのように爽やかな黄色の装飾の衣装を着た少女。

 ヴィランの前に降り立った二人の少女。しかしヴィランと比べればあまりにも小さい。誰の目で見てもその力の差は明らかだ。

 だが、人々は二人の少女を見て歓声を上げた。なぜなら彼女達は魔法少女――ヴィランに対抗できる唯一の存在だったからだ。


「そこまでよヴィラン! 私達が来たからにはもうあなたの好きにはさせない!」

「うぉおおおお、レッドアップルだ! イエローレモンも居るぞ!」

「頑張れ二人ともー!!」


 そして始まった魔法少女とヴィランの戦いを人々は見つめていた。

 それはもう熱狂と呼ぶに相応しい。駆けつけた警察が避難させようとしても誰も避難しない。それどころかカメラを構えている者までいる始末。まるで見世物だった。

 しかし、そんな光景を冷めた目で見つめる少年がいた。


「けっ、つまんねー。何が魔法少女だ」


 彼の名は紅咲春輝。高校二年生になったばかりの少年だ。

 春輝は過去のとある一件から、魔法少女という存在が嫌いだった。おそらく春輝のように魔法少女を嫌う者は珍しいだろう。魔法少女は正義の味方。この世界の救世主なのだから。


「くだらねぇ」


 春輝は魔法少女とヴィランの戦いを尻目に、妹から渡された買い物メモを手にスーパーへと向かった。




  

 魔法少女。

 それはおよそ七十年前に突如としてこの世界に現れた異界の存在――ヴィランの出現と同時期に現れた正義の味方だ。

 兵器の通用しないヴィランに対抗できる唯一の存在。ヴィランに脅かされた人々にとって、魔法少女はまさに救世主と呼べる存在だった。

 しかし時が流れれば人は慣れる。魔法少女にも、そしてヴィランという存在にも。

 その結果が今だ。魔法少女とヴィランの戦いは見世物のようになってしまった。


「あんなの見て何が面白いってんだ」


 今や魔法少女は企業の広告塔としても起用されている。春輝のいるスーパーも、先ほどヴィランと戦っていたアップルレッドとレモンイエローがCMに使われている。

 どこにいても、何をしていても魔法少女の名を耳にしない日は無いと言ってもいい。自分が少数派であることは春輝も理解しているが、それでもその事実に嫌悪感は抱かずにいられなかった。

 そんなことを考えながら買い物メモに書かれた物を一通りカゴに入れた春輝は、お菓子売り場へとやって来ていた。


「チビ共にお菓子でも買って帰るか。あーでもなー、勝手に買って帰ると秋穂がうるさいんだよなー。いや、ちょっとくらいなら問題ないだろ。最近は秋穂の手伝いも頑張ってるみたいだしな。労働には報酬あってしかるべきだ」


 自分への言い訳を済ませた春輝はいくつかのお菓子を見繕ってカゴの中へと放り込む。

 そのまま買い物を済ませ、家路に着いた春輝は最後まで気付かなかった。そんなハルマのことを見つめる目があったことに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る