第12話 強気MAX令嬢ですって?
「ソフィー。わたし、退学することにする! そうしたら、妃候補の学院長推薦も取り消されるでしょう?」
「ええっ!? ですが、卒業まであと1年と少しあるのに――」
「卒業しなくたって、教育省の卒業認定試験に合格すればいいのよ」
「たしかに……」
「早速、学院長へ挨拶に行ってこなくっちゃ。せっかくだから、同窓生たちへも顔を見せてくるわ」
「ですが、まだお顔の傷が――」
「だからよ! 令嬢としての矜持を傷つけられ、心身ともにボロボロの私に牙を剥く外道を炙りだす絶好のチャンスでしょ? ここぞとばかりに攻撃してきた子息のリストを作成して、治療費がわりに侯爵へ差し出すわ」
「さっすがお嬢様! 転んでもただでは起きませんね? では早速、松葉杖をご用意いたします」
「私、足は怪我していないけど?」
「演技ですよ、演技! それに、頬の傷と痣がより目立つように、登校はスッピンでよろしいですね?」
「いいわ」
「眉毛も、弱気MAX令嬢って感じに、優し~い印象のカーブを描くよう、カットしちゃいましょう!」
「ねぇ。それ、もっと早くやってちょうだいよ」
「お嬢様の、真っ直ぐなキレッキレの眉毛のファンでしたので」
「何それ? 何フェチ?」
「そうだっ! 片目にだけ眼帯付けちゃいます?」
「女海賊みたいになって、以前より悪女感マシマシになるんじゃない?」
「それは……」
「そこ、否定してほしいんだけど。ソフィー貴女、楽しんでるでしょう?」
「ふふふっ。だって、お嬢様が相変わらずのお嬢様だから、嬉しくって」
「もうっ! 振られちゃったくらいで引きこもる私だと思ったら、大間違いよ!」
「そうですよね。殿下に見向きもされなかったばかりか、大衆の目前で無様に突き飛ばされて尻もち着いちゃったくらいで逃げ隠れするお嬢様じゃないですよね?」
「そう、ね。なぜかしら。人に言われるとちょっとムッとするわ」
「お嬢様は、理由もなく皆から“悪女”認定されてきたんです。今こそ鉄の心で立ち上がり、真の悪人に鉄槌を食らわせてやる時ですわ!」
「あのね、皆からとは限らないんじゃない?」
「あぁっ、強気MAX令嬢が弱り切った姿を見たときのご学友の反応っ!! 今から楽しみです」
「私って“強気MAX令嬢”って呼ばれてるの?」
「え? ご存知ありませんでした?」
「まったく……」
「お嬢様はたしかに毒舌で、ヨイショが下手で、お高くとまっている感が否めませんが、素直で飾らない美しい心を持つ女性です。優しくしてくださる御方が1人くらいはいるはず……いるかも、という希望くらいは持ってもよろしいかと」
「ねぇ。さっきから私のこと、ディスってる?」
「お嬢様! どこでそんなスラングを!?」
「妃候補たちが言ってたのよ。私ね、『ディスら令嬢』らしいわ」
「ええっ!? お嬢様を形容する言葉がまた増えましたね……」
「ろくなやつ、ないけどね」
「というか、良いのあります?」
「なぜかしら? イラッとくるわ」
「そういえば、バイオリズム的にそろそろですかね?」
「たぶん、それとは別の要因だと思うわ」
「え、大変っ! お医者様、呼んできましょうか?」
「結構よ!」
こんな会話をソフィーと交わしていたとき、まさか扉の向こうにリシャール殿下と大量の冷や汗をかいたクロードがいただなんて、この時の私は想像もしていなかった。
殿下の見舞いを断って
「隊長が? じゃあ、
「えっ!? 本当によろしいのですか!?」
「どうしたの、クロード。大きな声を出したりして」
「いえ、その……リハビリで体力を消耗されているのではと思いまして」
「あまりおもてなしはできないけど、隊長相手なら気力が消耗されることはないから大丈夫よ?」
「さようですか……んんっ……かしこまりました」
裏庭というのは名だけで、自然光がたくさん降り注ぐその場所は冬でも温かいほどだ。芝生を囲むようにたくさんの果樹が植えられていて、香り豊かな花実を見ているだけで心が癒される空間となっている。
春から秋にかけては、庭に置いてある素朴な木のテーブルセットで食事やお茶を頂くのが私のお気に入りの過ごし方だ。
「――よぉ、フィーヌ! 大変だったな」
「隊長! この節はありがとうございました! 湿布までいただいちゃって」
「身体の方はもう大丈夫なのか?」
「もう、すっかり! 今朝なんて、腹筋30回やっちゃいました」
「痛々しいな……。殿下との面談を断ったのは、頬の傷のせいか? 心配されていたぞ?」
「えっ!? 隊長、殿下とお会いになったんですか?」
「本邸の応接間でな。
「言っておいたって、何をです?」
「乙女心を察してやれって。それに、殿下と俺とでは、フィーヌと共に過ごした時間が違いますからね、とも」
「隊長! そんなこと言って、ヘンな誤解されたらどうするんです!?」
「誤解もなにも、ほんとだろ。それに俺、殿下の兄弟子だから不敬罪に問われる心配はないんだよ」
「えぇ――っ!? そうなんですか!?」
そう。
ガブリエル隊長とは、遠征先でバディを組んでいた仲だ。
13歳の頃から隊長の愛馬に乗って前線へ行き、敵方の防衛魔法や攻撃魔法を無力化するお手伝いをしてきたのだ。
未成年の私がそんな危険な任務にあたっていたのには、れっきとした理由がある。
それは、とある授業で起きた不幸な事件がきっかけだった。
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