第3話 一年前の答え合わせ

 一年前の大晦日きょう。俺は幼馴染みの陽菜はるなと近所の神社に来ていた。

 幼馴染み。よくあることだ。家が隣で、親同士の仲が良い。生まれた年も一緒だから幼稚園生の時から、ずっと同級生。そんなアニメみたいな関係が陽菜と俺の関係だ。

 アニメみたいな関係となるとだ。当然、あのイベントも起きる訳だ。

『好きだ。好きです』のあれだ。

 思春期真っ只中の高校三年、最後の大晦日。当然のように俺は陽菜と夜の神社に来ていた。陽菜はダークグレーのモッズコートにショートブーツ。白いインナーとフレアスカートがよく似合っていた。

 陽菜は幼馴染みの俺からみても滅茶苦茶に可愛い。クラスだけじゃなくて後輩も他校生からも人気だ。俺は昔からそんな陽菜の事が好きだったし、多分陽菜も。

 そして一年前の大晦日。除夜の鐘を聞きながら、ふと陽菜と目があった。あんなに騒々しかった音が消え、二人しか居ない。そんな時間があった。

「陽菜。あのな、前から言いたい事があったんだけどな……」

 陽菜は視線を外し、一度俯いた後にもう一度俺を見た。少し赤い顔。目元は何だか潤んでいる。髪を触り「なあに?」と真っ直ぐに返す陽菜の言葉。

 周りの音は聞こえず、自分の鼓動が聴こえる。屋台の灯りや焚き火の揺らめきが陽菜を照らす。

 そして俺は……。


 そこから何も言えなかった。


 結局、二人でそのまま神社を後にし、いつもと変わらない日々を卒業まで過ごした。

 卒業後は、俺は地元の専門学校に。陽菜は地元から少し離れた大学に通った。

 二人でいる事が当たり前だった日々は、当たり前じゃなくなった。

 そして大晦日きょう。俺は一人、あの神社に来ていた。

 もし、あの日に陽菜にきちんと好きだと言えていたら、何か変わっていたのだろうか。

「ちょっと、一緒に行こうって言ったじゃない!」

 陽菜は少し怒りながら歩いてきた。久し振りに会う陽菜は一年前より大人に見えた。

「陽菜。一年前に俺が何か言おうとしてたの覚えてるか?」

「うん。結局何でもないって話だったやつでしょ?」

「もしさ。あの日、俺が言いたかった事を言えてたら何か変わっていたのかな?」

 陽菜は少し考えてから答えた。

「さぁ、どうだろ?。何を言おうとしたのかも分かんないし。なんて事もなく、一年が過ぎたのが事実。だけど、今日は特別にそのを聞いてあげよう」


 陽菜は一年前と同じ顔をして、キラキラした笑顔をしていた。


「あのさ、俺。陽菜の事が……」


 二人に周りの音は聞こえない。



 ー一年前の答え合わせー


 了

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