初出勤と煙の洗礼
その日はたまたまクリスマスイブであった。
べつに狙ったわけでもないし、予定があったわけでもないので、特別な感情を抱くこともなかった。
LINEで店長から「今日はイベント日だから、他のスタッフはコスプレ勤務だ」と聞かされていたが、新人は無難にスーツでいくことにする。
いつも通り筋トレをしてシャワーを浴び、そして新宿へ向かった。
出勤は21時半から。この時間帯で歌舞伎町で素面でいるなんて、もしかしたら初めてかもしれない。
二度目の来店。各人に挨拶をして、敵じゃないことをアピールしつつ、さっそくオープン作業に入る。
とはいえ、物の場所を覚えるくらいでやることはいたってシンプルだった。
前職の影響でシンクの汚れやグラスの水垢具合までくまなくチェックしていたことから、この段階で「まぁ、歌舞伎町だし」という心情になっている。
研修が始まるやいなや、真隣でタバコをふかしながら「研修中の喫煙はダメだよ」と注意してくる主任のA氏。
服にヤニがつくのってこんなに不快感を覚えるんだと思った。ボクだけスーツだったからかもしれない。
それとも主任の吸っている銘柄がハイメン(ハイライト・メンソール)だったせいだろうか。
まず主任ってなんだよって突っ込みからはじまるが、そこは詮索しないことにする。
とにかく帰ったらすぐに洗濯機にぶち込もう。ノンアイロンのシャツを買っておいて正解だった。
その日の終わりにはスーツがタバコ臭でまみれていた。
ハイメンの分際で…、とキレそうになる心を沈めつつ、これが夜の世界の洗礼だと笑うしかなかった。
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