天使狩りの天使のリアル
鳥月すすき
第1話
俺は本物の天使を見た。
そういうと大抵の人間は軽く笑って返す。
ただの見間違えだろ?
とか。
天使並みに可愛い女の子を見たんだろ。よかったな。
とか。
幻覚じゃないのか。病院行って来い。
とか。
妄想も大概にしとけ。
とか。
人によっては、本当に見たのか、すごいうらやましいな、なんて素直に受け止めた。
周囲の反応は大方そんな感じだ。それでも、俺は胸を張って言える。本当に本当の本物の天使を見たのだ、と。
奇跡的な出会いであり、幻想的な光景だったから、確かに嘘のような話に聞こえただろう。俺自身もその出会いの後はしばらく夢現の気分であった。
――天使。
どうしようもないほどそうとしか表現できない少女を、俺は確かに見た。
部活で帰宅の遅くなった学校帰り、近道しようと横切ったビルとビルの狭間にある小汚い細い路地で――俺は彼女を見た。
夜空からゆっくりと舞い降りた彼女は白く輝き、背中からは白鳥や鶴にも負けない白銀の巨大な翼が生えていた。彼女の瞳はルビーのように紅く、肌は月よりも白く明るかった。髪は長く銀色で、小さくか細い少女のような体型をしていた。顔、体、翼、どれをとっても作り物とは思えない、目の前にある現実の存在だった。
文字通り、この世の人間ではなかった。
俺は彼女をじっと眺めることしかできなかった。近づけばあっという間に逃げてしまいそうで、立ち尽くしたまま見ているしかなかった。
対して彼女は、やるべきことをやると、俺をちらりと見て……なんでもないかのように再び虚空の夜空へと飛び上がって行ってしまった。
たったそれだけのほんの数秒の出来事だが、俺にとっては何にも代え難い貴重な数秒だった。
同時に――俺の心を奪う数秒となった。
いつまでも変わらない日常に嫌気が差していた俺にとって、その数秒は衝撃的だった。どれだけ勉強をして部活をして頑張って友達と遊んで娯楽を求めても、世界は何も変わらずに淡々と進むだけだ。
俺がどれだけ何をしても、どれだけ頑張っても、何も世界は動かない。
成長しても、平凡な俺がいる世界は続いていくだけだ。
だからか。
俺はその天使に魅せられた。
非現実的な話だが。
その日、俺はどうしようもないほど本物の天使を見た。
ただ、それだけだった。
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