第十三話 善人 地に絶ゆ 人の中に直き者なし 皆血を流さん
教堂の前の丘にある
「ここは、えっと
嘉助が首を巡らす。
風が強く吹いていた。
ツパルク村は平原のなかの小高い丘にある。
その村の中でも一番の高所にある鐘楼からは平原に通る街道が見渡せた。
『点系魔法陣一重一連、展開──発現、視覚、拡張。起動』
セブは
しかし遠くの景色は、ほとんどボヤけている。
近づく敵は
『点系魔法陣二重二連、展開──発現、亢進、起動』
セブがさらに魔法陣を追加すると、少しずつ
やがて日が
長く連なる人馬が旗を掲げて
「キンキラん旗が多かぁ。ガロツクていうとは、
暮れかかる日差しを照り返す旗を見つめる縫が、ため息を漏らす。
「
『嘉助様は魔法も使わずに、あんな遠くの
「
『まったく、驚くべき技術ですね』
セブが感心していると、嘉助が身を乗り出す。
「ん? あのトカゲの太うなったごたる、
『あれは……
視界には小さな舟ほどの大きさの動物が人を乗せて進んでいる。
「うはぁ。龍げな。龍て初めてみたけど、
嘉助が無邪気な大声をあげる。目を
『嘉助様、ガロツクの掲げる軍旗の
「赤ですばい。しかし、ようっと見ても龍ていうとは、えっと太かトカゲですね。そいで
『ガロツクの騎士団には龍が、数多くいるのですか?』
「はい。二百頭ばかりは、
嘉助の返答を聞いたセブは、ため息とともに
『なんと……よりにもよって敵が聖龍騎士団だとは……』
「なんねセイリュウキシダンていうとが、どげんしたとね?」
『ガロツクで最も強いといわれた魔法騎士団です』
『
「へぇ。そいは、
「よう知らんですけど、何ちゃなかですよ。ウチたちはマホウには当たらんですけん」
縫の軽口にセブは渋い顔のままだ。
『魔法は
「たしかにウチも龍やら戦うたことはなかけど、生き
縫はふざけているのかと疑うほどに軽い口調だ。
戦う前から龍への
一方の嘉助は、下がり
「そいは困りました。見たところ
尻ごみする嘉助の横から、三千世が顔をだして声を上げる。
「生き物なら、血の道か気の道さえ断てば死ぬて。なんちゃなかよ、嘉助ッ」
「
「そりゃ、三千世様ならやれるやろぅですけど、オイにはキツかですよ。見てください龍だけでも二百頭ばかりもおるごたっですよ」
「
気弱に頭を
そして嘉助や独去も、二人の二千人騎士も二百頭の龍も怖くはないという言葉を当然のように受け止めている。
この状況が異常だった。
セブにはまったく理解ができなかった。
「嘉助っさん、ほら見てん。あの一番大きか金色の龍にのる人は綺麗かよッ
『それはおそらく巷で〝
セブが消え入りそうな声で呟く。
「日の光みたいな出で立ちで、そうにゃ
ため息をつく嘉助の肩に手を置いた三千世が、ぴょんぴょんと跳ねる。
「あ、みちのあっこに
「後でね。なんでん終わった後に一緒に行こね、お嬢」
『
「うん。
セブの問いに
「……
「姫様なら止められん。せんないことだな」
越し方を思うもの悲しさには、少しも気づくことなく嘉助は龍をただただ熱心に
「ははぁ、あの
『嫌な話ですが、戦場では龍に敵兵を
「なるほどな。そりゃ便利ん良かな────いや、待て待て。そげんとはダメやろ。敵とはいえ龍が人ば食うとっとば味方の兵が見たら、
縫もげんなりした顔で龍の列を
「敵や
縫と嘉助は、
遠くに見える隊列は
「見とってもなかなか進まんです。ガロツクの軍の進む速さは、えっと遅かとですね」
「谷あいの道が狭いのだろう。そんな地形ならもっと警戒しながら進みそうなものだが、わざと
「
「
つまらなさそうにこぼした独去は、
「ウチ達は、
「そうですばい。無かとは無かとです。そいよりお師さん、独去さん、右の谷、あの大岩のあたり見てくんしゃい、何か起こっとぉです」
視線を向けると、岩の裂け目から細く
「
遠くに見える
どうやら魔法で風を起こして岩の裂け目に
「アイツら、
誰も武装はしていない。ただの村人に見える。
彼らは出て来る
「
『あのあたりなら……それは我らと同じこの地の住人ですな。
「ここん人らを
『恐らくは……龍の
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