海に沈むジグラート27

七海ポルカ

第1話




「ジィナイース様。お目覚め下さいませ。もう先生がいらっしゃいますよ」



 女官が朝食を持ち、起こしに来た。

 王太子ジィナイースは遠慮なくシャッ! と天蓋のカーテンを開けられて、顔面に直射した太陽の鬱陶しい光が当たり、呻きながら首を反らす。

「起きて下さいまし!」

「…………うるさいな…………寝れなかったんだよ昨日…………」

 閉めようとしたカーテンを奪い取られ、またシャッ! と激しく開けられたルシュアンは諦めた。嫌な顔をしながら何とか起きて、支度をし、朝食を食べながら寝ようとしたので「失礼! 手に虫が!」とビシリと手の甲を叩かれて、文字通り叩き起こされる。

 この女官はルシュアンの乳母だった女官の娘で、王太子と侍女だが、幼馴染のような長い付き合いである。歳は女の方が十歳以上年上なのだが、年の離れた姉と弟みたいな空気になる、王宮で唯一の存在だ。その為、この国では誰も彼もが王太子の自分をちやほやするというのにルシュアンの性格をよく把握しているしっかり者の彼女だけは、容赦なく口うるさい。

 俺はしっかり者の女なんか五月蝿くて嫌いだ。

「なんか言いましたか殿下」

「……べつに……。」

 虎が牙を剥くみたいな気配を見せた女官から顔を背けて、ルシュアンはあまり食べる気のしない朝食の紅茶を口に含んだ。


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