第8話 ヴァリスの話
すっかり遅くなった俺たちは馬車の横でたき火を焚いていた。本当は街に帰ることも考えたけど、今のヴァリスを連れていくのはちょっと危険だと思ったからだ。
「即席だけどスープを作ったんだ。飲むかい?」
「いや、私は……」
申し訳なさそうにする彼女のおなかからら「くぅーー」という可愛らしい音が響きその美しい顔が真っ赤になる。
「その……これは、違うの……敵に追われて何もたべてなくて……」
「遠慮しないで。はい、どうぞ」
「……もらうわ」
言い訳する彼女にスープの入った木製のカップを渡すと一瞬驚く。一瞬笑顔になったのは気のせいではないだろう。
「この香り……私たちも良く料理に使うの。あなたはエルフの事に詳しいのね」
「ちょっと色々あってね」
ヴァリスの顔が少し和らいだのをみてほっと一安心する。ゲームの知識を使って彼女たちが好む木の実をいれたのだ。やはり、美味しいものは人の心を落ち着かせるからね。俺は勇者たちのようなカリスマ性はない。だから、使えるものは何でも使っていくのだ。
「ここらへんに魔物はいないようだな。おっと……もしかしていい雰囲気だったか? 大好きなエルフがいるからって変なことをするなよ」
「なっ、俺の作ったスープを味わってもらっていただけだよ」
わずかに笑顔を見せてくれたヴァリスを見て安堵の吐息をもらしていると、偵察から帰ってきたジークがからかってきた。
「とりあえず自己紹介をしないか? 俺はジーク。こいつの相棒だな。得意なのは回復魔法と剣を少々使えるぞ」
「俺の名前はフェイン。今は冒険者をやっているんだけど……エルフの里が危険な状況だと聞いて、調べに来たんだ」
「まって、フェインってあの勇者フェインなの!?」
「今は元……だけどね」
驚きの声をあげ瞳から警戒心を消すヴァリスにちょっと恥ずかしくなる。ちなみにこれは原作と反応と同じだ。
やはり勇者はすごいなと改めて思う。
「二人ともさっきはごめんなさい。ちょうどだまし討ちを喰らって動揺していたの」
「ああ、エルサールにやられたんだね。詳しく教えてくれるかな」
「さすがは勇者ね、そこまで調べているなんて……私たちは人間と手を組んでアンドラスと戦っていたわ。だけど、ある日私たちがアンドラス配下の魔物の襲撃をおさえているとエルフの戦士長のエルサールが突然、砦をしめたのよ。扉は開かれず、しばらく身を隠してエルフの里にもどったら、そこは魔物と人間に支配されていたわ」
「つらかったね……」
タイミングこそ早いもののストーリーの流れはゲームと同じようだ。エルサールはアンドラスにそそのかされておりエルフを裏切ったのである。そして……
「エルフの里には私の妹もいるのよ……優秀な弓使いなんだけど心が優しいから人質をとられたんでしょうね……」
そう、ヴァリスの妹こそがメインキャラクターであり、主人公候補の一人なのだ。彼女を助ければ、七大罪との戦いも楽になるだろう。
視線を感じるとヴァリスがおそるおそるとばかりにこちらを見つめているのに気づく。
「それでその……失礼なことをしておいて言いにくいんだけど、エルフの里をとり返すのを手伝ってくれないかしら?」
彼女の言葉に俺とジークは目を合わせる。答えは決まっている。
「俺はもう勇者じゃないけどさ、勇者では救えない影の英雄を目指しているんだ。そして、俺は君のようなのを救うたびに旅をしているんだ」
「ありがとう。じゃあ、私の秘密基地に案内するわ。そこで作戦会議をしましょう。その……あまりきれいな所じゃないけど許してね」
「エルフの隠れ家に案内してもらえるなんて光栄だよ」
ゲームで行きたかった場所だとテンションをあげていると、ジークがからかってくる。
「かっこつけるねーー!! こいつはエルフが大好きだからな。ヴァリスさんに惚れているだけかもしれないぜ」
「ちょっとジーク!! 変なことを言わないでよ!!」
せっかくカッコつけたのにまた顔が赤くなっていないだろうか? 前世から女の子にはなれていないから、こういういじりには弱いのだ。
勇者っぽくないよね。
「ふーん、人間なのにエルフが好きとか変わってるわね……」
ちょっと顔を赤らめてこっちをみるヴァリスさんにちょっとドキッとする。だけど、言い聞かせるのだ。
今は恋愛なんてしている場合ではない。俺はこのあと強力な弓使いであるエルサールと戦わねばならないのだから。そのためにはあのイベントを行わなければ……
★★★
死角から魔力の宿った矢が飛んでくる。
「はは、これがエルフの魔矢か……ゲームで知っていたけど実際にみると恐ろしいね……」
風の魔力を纏った矢はこちらにむかってくる最中にも軌道を変化させていき、剣で切り払うのにも苦戦する。
だけど、ここでくじけるわけにはいかないだのだ。そう思って矢を放った相手であるヴァリスをみつめるのだった。
★★★
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