聖剣を奪われた上に偽りの勇者と追放された俺ですが、それでも世界を救う英雄であることを目指します……いや、目指さなきゃいけないんだ!!
高野 ケイ
第1話 偽勇者は追放される
「フェイン……よくも俺たちを騙してくれたな。勇者を騙った罪で断罪させてもらう!!」
騒がしかった酒場の喧騒がその一言でシーンとする。この街を苦しめていた人類の脅威である『七大罪』の一体ファフニールを倒し、その打ち上げの場のはずだったが……そこで俺は断罪を受けていた。
「俺が偽物ってどういうことかな? 俺は神託を受けて勇者だと君の父である王様にも認められて旅だったんだけど……」
優しく諭すように俺を断罪した男……パーティーメンバーの剣聖でありこの国の第三王子のシグルトに伝える。
そう、俺はちゃんと王に勇者と認められて旅に出たのだ。
最初は本当につらかった。神託に従い幼馴染であり聖女であるテレジアと旅立ち王城に向かったものの封印されておりろくに使うこのできない聖剣一本と、はした金でどこにいるかもわからない『七大罪』という強大な敵たちを倒してこいなどと言われたのだ。
正直ブラック企業も真っ青である。だけど、俺にはどうしても勇者にならなければいけない理由があったのだ。
そして、苦労のすえに聖剣の封印を解いたと報告すると、王の命令でやってきた目の前にいる剣聖シグルトと、その両隣に仲良く座っている二人の女性……賢者クリームヒルトと、斥候のハーゲンを仲間に加え旅をつづけることになったのだ。
「ああ、そうだな。確かに父上はお前を勇者を認めた。だが、お前が聖剣をふるっているところを俺は一度も見たことがないぞ」
「それは……まだ俺の力が足りなくて……」
「何を言っているのかしら、先代勇者様は聖剣の封印を解いたと同時につかえたはずよ」
「だとしたらやっぱりフェインは勇者じゃないんじゃないかな?」
シグルトの言葉をクリームヒルトが援護し、それにハーゲンもうなづいた。
わかっていたが、この二人は完全にシグルトの味方みたいだ。王子であるシグルトはもちろんのこと、この二人も貴族であり友人なのだ。だからか、やたらと高価な宿に泊まりたがるし、雑用もろくにできないしやろうともしない。
それを注意するたびに俺たちの間に亀裂は広がっていったけど、断罪までされるとは……
俺は最後に一縷の望みをかけて、それまで無言でこちらを見つめている幼馴染のテレジアをみる。
「つまり、お前は何らかの理由で勇者である資格を失ったのだろう。なあ、テレジアもそう思うよなぁ!!」
「確かに、私たちが受けた神託は『われらの村に現れるゴブリンロードを倒した青年が勇者になるであろう』というものでした。ですが、勇者は存命中でもその資格を失うことはあります。もしかしたら、聖剣はフェインさんより勇者にふさわしい人物をみつけたのかもしれませんね、それを私たちにもかくしていたのでしょうか?」
長身で胸こそないものの絶世の美少女であり、いつも俺に笑顔を振りまいてくれていた彼女は俺が見たことのないくらい冷たい目をしていった。
それを見て俺はもうこの断罪に関してのパーティー内での根回しはすんでいたのだと理解した。
「ふん、話は決まったようだな? もしも、お前が勇者だというのならば聖剣を抜いてみるがいい」
「それは……」
無理に決まっている。だって、俺は本当に勇者ではないのだから……そう、彼らは勘違いしている。俺は最初から勇者ではなかった。本当の勇者は俺の目の前で死んでしまったのだから……
だから、彼の代わりに勇者だと認められるために文字通りに死ぬほどの特訓を続けていたのだ。
「できないよなぁ。だって、今の勇者は俺なんだからよぉ!!」
言いよどむ俺にシグルトが得意げな笑みを浮かべ、俺の腰から聖剣を奪い取ると、俺が死ぬほど頑張っても抜けなかった刀身があらわになる。
勇者しか抜くことはできないはずの剣が……
「昨日の夜に天啓が下ったんだ!! 俺こそが真の勇者だと!! フェイン!! なぜ勇者の力を失ったかはしらないが、これまでの功績に免じて処罰はしないでやる。そのかわり俺に聖剣に蓄えていた力をすべてをよこせ!!」
「そうか……三年たったのか、ゲームと同じだ……勇者はシグルトに継承されたのか……」
彼が剣を掲げるのを見て俺は最悪の予想が当たったのだと知る。
いくら頑張ってもモブキャラにすぎない俺は勇者になれなかったようだ。シグルトの言葉に従うかのように聖剣が輝くと、俺の体から光が生み出され、それがシグルトの体の中に入っていく。
「はっはっは、これで俺がお前がもっていた最強の力は俺のものだ!! 悪いなぁ、フェイン!! お前が成長させた聖剣の力は真の勇者である俺が有効活用させてもらう!! そして、真の勇者パーティーに勇者を騙っていた偽物はいらない。俺の言いたいことはわかるよなぁ?」
「ああ、俺は出ていくよ」
これでも頑張ったつもりだった。勇者に選ばれるよう必死に鍛錬したつもりだった。あいつの代わりに死ぬ気で頑張ったんだ。
だけど、選ばれなかった。モブに転生した俺では勇者の資格はなかったのだ。その結果を思い知る日はいつかか来るとはわかっていたがいざ来るとつらいものだ。
「フェイン!! その……」
逃げるように酒場を後にする俺を追いかけてきたのはテレジアだけだった。
「ごめん、俺は本当は勇者じゃないんだ。聖女である君はシグルトをささえてやってくれ」
君だって俺を追放するのに賛成していたんだろ? 一緒に冒険していた時だって、俺は勇者にふさわしくないってうすうすわかっていたんだろ? だって、君は本当の勇者を知っているのだから……
なのに、なんでそんなにつらそうな顔をするんだよ。
テレジアが何かを言いたそうに俺を見つめていたが、とてもではないが話す気分にはなれなかった。
親友への償いもできなかった俺にはもはや生きる目的はない。ああ、そうだ死ぬ前に久々の墓参りをしよう。
酒場を後にして荷物を整理した俺は乗合馬車に乗っていた。商人らしき人間と、冒険者らしきもの、あとはフードを被った人間がいる。
「お兄さん一人かい?」
「ええ、故郷に戻ろうと思いまして」
「あー、このへんも物騒になってきたからねぇ。」
何となく寂しかったので声をかけてきた商人に答えるが早速後悔する。
「でも、勇者様がやってきて『七大罪』の一人ファフニールを倒したらしいぜ。俺ももっと強ければ仲間に立候補したんだけどなぁ……」
ついでにとばかりに割り込んできた冒険者の言葉に胸がちくりと痛む。だって、俺は勇者になれなかったのだから……
「あれ、でもなんかその勇者様は怪我をして、新しい勇者になったらしいよ。商人仲間がいってた」
なるほど……街を救ったのが偽物だと格好がつかないからそういうことにしたのか……これ以上は話を聞きたくないので寝たふりをしようとしたときだった。
「ダークワイバーンがきた!! ダークワイバーンがきたぞぉ」
「なんでこんなところに!? まさかファフニールの部下の残りか!!」
馬車がとまり、人々が慌てて騒ぎ出す。ああ、失敗した。本当は打ち上げが終わったら残党狩りをしようと思っていたんだ。
民衆を恐怖させてしまうなんて勇者失格じゃないか……まあ、本当に失格だったんだけど。
「おい、あんた!! ダークワイバーンは一体で町一つ滅ぼす強力な魔物だぞ、早く逃げて勇者様一行に助けを……」
「それなら大丈夫だよ。勇者スキル グランドクロス(偽)」
俺が詠唱すると、巨大な白い十字架が生み出されて、そのままダークワイバーンたちを消し飛ばす。
思った通り力は変わっていないね。それも当たり前だ。だって、勇者でない俺は一度も聖剣の力なんて使っていないのだから……シグルトは勘違いしていたが俺の力は一切減っていないし、彼は何も得ていないのだ。
だって偽物の勇者である俺には聖剣を成長させることなんてできないのだから……
今のこれも勇者のみが使える光魔法ではなく、白く高熱の炎をうみだした火炎魔法の応用して光の力にみえるようにしているすぎない。
「ああ、でも、もう偽らなくていいんだよね……」
そう、自嘲する俺を、一緒に乗っていた人々が褒めてくれる。
「あんたすごいじゃないか!!」
「勇者様と同じくらいすごいぞ」
皆が称賛してくれるがどうでもよかった。俺は結局勇者になれなかったのだから、あいつの……俺の目の前で死んだ親友であり本当の勇者だったジークの意志を継ぐことができなかったのだから……
「強くなったな、影の英雄さん」
その呼び名に俺は驚きと共に振り向く。だって、その称号は俺とテレジア……そして、ジークしか知らないはずなのだから。
まだ、ジークが生きていたころに三人でやっていたくだらないごっこ遊びでの話だったのだから。
「君はまさか……いや、ゴブリンロードの一撃で死んだはずじゃ……」
「ふっ、じゃあ、俺がだれだっていうんだ。まさか、親友のことをわすれたわけじゃないよな、フェイン」
テレジアと同じく美しい銀色の髪に、仮面をかぶった青年……『本来の勇者』であり、俺のせいで死んだはずのジークらしき人物はそういったのだった。
★★
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