第3話

扉の先には仕切りのない大部屋が1つあり、部屋の壁と一体になるように上階への登り階段があった。どうやら安全領域のようだ。


「ふぅ。安全領域か…気が抜けるな」


死ぬことはないと分かっているにしても、こちらへの敵意、害意などを感じると恐怖や緊張感は芽生えてくる、抗えないのだそういった本能には。

しかしここは安全領域。他の存在への害を与えることが不可能であり、獣が侵入することが不可能な領域。仕組みは分からない、だがそういうルールの場所だ。そのためここは安全領域と呼ばれダンジョンに入る挑戦者達に求められ愛されている憩いの場であるのだ。


「迷宮型…暗所に適した獣、目無し悪魔…川に流される前は山で遭難していた……。あぁ、そこまで遠くへは流されていなさそうだな」


つまり、俺が元々いた街『テルテス』からフィアの故郷の村『ヌバ』その間にある森林『ハーファル大森林』とそこに境目無く繋がっている山から連なり存在する『ダルアルク山脈』、ここに居る可能性が高い。

 しかし川に流された事が気がかりだ。ハーファル大森林から山に迷い込み、ダルアルク山脈まで流されているならかなりの時間がかかるはず。首が折れて気絶したのだとしても再生して目が覚めるほうが早い、なにせ水中にいるんだ息苦しさや顔に水が掛かることで目が覚める補助がされる、ならばこのダンジョンがある場所はダルアルク山脈の手前、ハーファル大森林と境目無く繋がっている山の下麓周辺に存在していると思われる。


「出れさえすれば帰ることはできそうだな」


何の根拠もない自身の持つ情報のみでの予測に過ぎないが、この迷宮から抜け出すための気力を維持するには十分な希望を得ることは出来た。


「そろそろ行こう。酒が飲みたくなってきた」


俺は地面から立ち上がり階段を登り始めた。


○●○

?時間後


時計も無く時間の経過を感じられる物も無い為、正しい体内時計とはサヨナラしている為、体感でしか無いが2時間程度だろうか。獣と遭遇すること無く歩みを進めて再び、木製の扉を見つけた。


「ボス部屋か安全領域か。もしもボス部屋ならばまたこの階層を歩き探し、安全領域ならば明確な成果を得ることになるな。50%50%のギャンブルだ。いこう」


木製の扉を押し、部屋の中に入る。


中には等間隔に置かれた石柱、奥には玉座、壁には赤地に金の装飾の布飾りがかかってる。


そして玉座には6本腕に3つの頭を持つ半狼人ウェアウルフ……阿修羅擬人狼ヴォルク•アースラが座っていた。


「あぁ…最悪だ。ボス部屋な上に危険度A級の獣がいる。不老不死の呪いの他に不運の呪いにでもかかっているんじゃないか?」


悪態をつきつつ、戦闘準備を行う。


ここ、ボス部屋のルール。たった3つしか無い、しかし破る事が出来ない絶対なルール。

1つ、入ったならば扉は閉じ、開くまで出てはいけない。

2つ、既に中にいる存在を殺すもしくは無力化しなければならない。

3つ、それらのルールを破った場合、死を乞うほどの不幸を与えられる。その不幸とは想像外の事象がほとんどであり、想像内の事象に収まる事もある。


つまり、死ねない俺は消去法的に真面目に格上の存在と武器防具なしで戦わなければならないということだ。最悪以外に何がある。


「さぁ、結果がわかりきっているつまらない戦いを始めよう」


俺は拳を握り阿修羅擬人狼に真っ直ぐ走っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る