生き残る者

Hr4d

第1話

『滞呪の地下迷宮』第7層濃深度。


金属と竜の素材を合わせた軽鎧を着た人間男の戦士2人と緑の妖精の加護を受けた毛皮のローブを着たエルフ女の魔法使い、楔帷子の上に薄黒灰色の革の防具をつけた軽鎧を着た猫獣人女の斥候、金属と分厚い革でできた重鎧を着た人間男の荷物持ちの5人パーティが迷宮攻略を行っていた。


「ユードそっちに行ったぞ!!」


戦士の片割れがもう一人に黒く細長いトカゲ、這い寄る毒呪スローターヴェノムが向かっていったことを伝える。


「わかってる!フルエ援護を頼む!」


「わかったわ!ユード!フーマン!壁との距離に気をつけて攻撃を仕掛けて!!」


「「了解!!」」


フルエと呼ばれた魔法使いが右手を額の右あたりの中空へ相手に向けて開いて掲げると、親指、中指、薬指に嵌められた宝石の埋め込まれた木製の指輪が緑にひかりだす。


ユードとフーマンは迷宮の壁を背に這い寄る毒呪を挟み撃ち状態にした上でユードは頭を、フーマンは尻尾にめがけて剣を振り下ろした。

這い寄る毒呪は咄嗟にとぐろを巻いたように丸まることで二人の斬撃を避けたが、その直後にフルエの緑魔法、穿つ風槍ウィンパイクにより頭部と胴体を穿たれ絶命した。


「ナイス連携!皆は警戒に移って!僕は剥げる部分は剥ぐから!」


「あいよ!頼むわカリー」


中身のしっかり詰まった巨大なカバンを背負い見るからに重そうな鎧を着たカリーはそんなことはないと言っているかのように軽快に息絶えた這い寄る毒呪に近寄り腰に差したナイフで素材の採集を始めた。


「にゃ~付近に気配は無いから警戒解いていいにゃよ〜」


そう言いながら迷宮の仄暗い場所から滲み出るように猫獣人の女が現れた。


「了解。ありがとうなカトラ」


「にゃ」


カトラと呼ばれた猫獣人の女は短く返事をすると再び迷宮の暗所に溶け込んだ。


約3分後…


「もういいよ。とれる物はとったから行こう」


「センキュー!よーし準備はいいな!行くぞ!」


フーマンがそう言うと皆はほぼ同時に動き出した。


時折噴き出してくる吸うと肺病にかかる呪いの瘴気に気をつけて5人は奥へ進んでいった。


しばらくするとカトラが皆に気配が近い事を知らせ、警戒態勢にパーティは移行し、ゆっくりと移動を始めた。



数秒後、カトラが大焦りで叫んだ。


「皆逃げるにゃ!! 呪を撒く者インフェクシングカースにゃ!!!」


それを聞いた全員は一斉に踵を返し第6層へ行ける階段に向って走り出した。


呪を撒く者。それは獣でも無く悪魔でも天使でも幽霊でも妖精でもない。呪いという言葉、概念が具現化したもの。見た目は黒いモヤが幼子が描く歪な人間を形成したような姿で、常に人の囁き声のような音を出しているがそれ以外の音は一切しない不思議な存在。それから漂うあまりに悍ましく濃い瘴気は空気に混ざる魔素を介して他の生物にその存在を伝える。これの真の恐怖は見た目や濃い瘴気では無く触れられたら多種多様な呪いにかかること。呪いという呪いがランダムにかかるのだ。そしてこれらに抵抗する術はなく助かる方法は唯一つ❲逃げる❳ことのみである。


5人は他の気配に警戒しつつ全力を持って階段を目指した。


10分…20分…いやそれ以上かもしれない。道標を辿り、猫獣人の能力で記憶した印も辿り5人は走り続けたがしかし、一向に辿り着かない。


「カトラどういうことだ!!こんなに時間がかかるはずないぞ!!」


フーマンがそう叫んだ次の瞬間、全身の皮膚が枯れ木のように痩せ細り皺まみれとなり黒ずんだ。


「なっ!」


それを見て小さく叫んだカリーは突然膝から崩れ落ち動かなくなった。


突然の事に思わず足を止めると前を走っていたカトラが振り返った。


そしてその顔を見たフルエは恐怖で大声で叫んだ。


「キャアアーーー!!な、何よそれェェ!!!」


その直後。フルエは膝から崩れ落ち、地面に座り込んだかと思えば突然細かく震えだし、数秒後に体を異常にのけぞらせながら半分白目をむき、失禁をしながら嬌声をあげた。


「んぅあ♡、ああぁぅうぁああああ♡!!!ああああああ♡」


その後もフルエは悲鳴に近い嬌声をあげながら全裸になり乳頭や秘部を触り狂ったように自慰をしては絶頂するという行為を繰り返し始めた。


「な、なんだ…なんなんだよ…何が起こってるんだよ…か、カトラなぁ!返事をしろってカトラ!」


「にゃぁ…」


ようやく声を出したカトラの方を見ると、両目はインクを垂らしたかのように染まり、猫の耳は絞られた雑巾のようになっていた。


「あ、あぁ…そうか…駄目だったんだ…気づいた時点で遅かったんだ…」


ユードがそう呟くと、体が一瞬何かに縛られたような感覚に陥った後もとに戻った。


「なんだったんだ…今の……あっ」


違和感に反応しつつ来た道を振り返るとそこにはコショコショと囁き音を出す呪を撒く者がいた。


「#%$@ⅯΜ∬∝€∉↶sddikn」


「……ぁあ。もういいよ…殺してくれ皆も…俺も…」


目の前の絶望に抗い術はなく、ただ死ぬしかない運命に逆らえないユードはパーティの仲間が苦しんでいるもしくは死んでいる事実とこれから死ぬという事実に過剰なストレスを

感じ、気絶した。


●○●


しばらくして、ユードは目を覚ました。


「…ぁれ?いきてる…?」


立ち上がり周囲を見渡すと、枯れた木の枝のようになったフーマン、鎧の隙間から血が流れているカリー、自身の胸と秘部に手を当て虚ろな表情なまま呼吸も無く微動もせずメス臭い体液まみれのフルエ、仰向けで倒れ鼻と口からドス黒い吐瀉物を溢れさせ首に引っ掻き傷が無数に付いたカトラが


「っぅっぐぅぅぅ……」


それを見たユードは歯を食いしばり目から溢れる涙を止めようとしたが無駄であった。


●○●


しばらくして落ち着いたユードは皆の首から冒険者組合から支給されたタグを回収し、出口を目指してトボトボと歩き始めた。


余程生気が無く悲しみと絶望をまとっている為か獣達との遭遇は少ない、がしかし獣は獣である。

とても狩りやすそうな雰囲気を纏うユードを狙い赤毛の大熊殺意の赤毛レッドキリングが現れた。


「あぁ…殺意の赤毛か…もういいよ…お前でいい……俺を殺してくれ…皆の下へ行かしてくれ……」


力なくそう呟くユードは抵抗も無く殺意の赤毛に襲われた。

爪で鎧ごと腹を裂かれ、腕を噛み千切られ、頭を踏み砕かれた。


しかしユードの意識は絶えず、苦痛と共に肉体が再生しもとに戻った。


「なん…だ…これは…」


自身の状況に理解が追いつかず呆然としていると、今しがた殺し一部を食っていたはずの人間が身にまとっているもの以外元の姿で居ることを不思議に感じている殺意の赤毛がもう一度襲い掛かってきた。


再び腹を裂かれ内臓を引きずり出され四肢を千切られ頭を半分噛み砕かれた。


しかし、その数秒後にはほとんどが治った状態で立ち上がった。


「これは……不死の呪い?それか再生の呪いか?」


だんだんと冷静になってきたユードは取り敢えず自分が死ぬことはないと悟り、置いてきたせいで武器も鎧もない裸一貫で戦いを始めた。


○●○


「ハァっ!!」


右腕に威力を集めたパンチで殺意の赤毛の左脇腹を殴る。


「グルァァ!…ぶもぅ!!」


一瞬痛みで叫んだもののすぐに気合を入れこちらに向き直った殺意の赤毛は走りを加えた引っかき攻撃を繰り出してきた。


それを左腕を犠牲に受け流し、顎に向って一瞬のしゃがみを入れた右アッパーを放つ。見事にそれは直撃し少し上に視線が向いた隙を見逃さず、わずかに使える魔法の一つ。赤魔法、火球ファイアボールをぶつけた。


火球が直撃した殺意の赤毛は自身の魔素が燃え消費されていくのを感じ取りつつ、目の前の敵を殺す為に距離を取り向き直った。


しかしユードは隙を与えず、すぐに近寄り赤魔法、火纏ファイアラップを使用し両手を燃やし、走りながら左腰側に両手を交差させながら溜め、遠心力を利用した擬似的なハンマーによる火炎付きの打撃を殺意の赤毛の腹に食らわせた。


「ぐぶぁぁぁ!!」


深く鈍い痛みに悶え、相手が自身よりも強者であると理解した殺意の赤毛は尻尾を巻いて逃げ出した。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


疲労でボーっとした頭をその場に座り休憩をする事で鮮明にさせる。


「タグを拾って帰ろう…弔いをしなきゃ…ぁぁもう…冒険は辞めよう…こんな苦痛を再び味わうくらいなら…何も感じなくなるまで部屋にこもっていよう……」


鬱的な思想に支配されたユードは仲間の弔いをした後冒険者を辞めることにした。


○●○


そこからは単純であった。仲間のタグを大切に抱えたユードは自身の肉体が容易に即座に再生することが分かっているため、全てを無視して走り抜けていった。獣の群れや殺人罠、盗賊かぶれの冒険者等々……、どこの役割でも出来るように全ての役割を学び最低限修めたユードは斥候の技術や荷物持ちの技術を使うことで最高効率で迷宮を脱出した。


●○●


3日後。冒険者組合を通し、仲間の家族が葬式やる為とタグの為にユードの下に来た。


仲間の家族からは、フーマンの両親からは一緒に冒険者をやってくれたこと、タグを持ってきてくれたことを感謝され、フルエの家族からは何も言われず、他の家族からはユードが生きている事と2人が死んだ事に対して罵倒を浴びせられた。


次の日、仲間を含めた他の死んだ冒険者を弔う集団葬式が行われた。街にある教会から冒険者組合にある慰霊碑の下へ神父が来て、一人一人の階級と名前を言い、最後に浄化の祝詞を詠み葬式を終えた。


●○●


70年後。


自身が不死ではなく不老不死の呪いをかけられたと気づいたのは、冒険者活動を辞めてから約20年経った頃だ。同期の冒険者達が年相応の見た目と会話の内容になっていくのに対して、自身は全く老化していないことに気づいた。


待っても死ねず殺される事もできないと解りより深い絶望を植え込まれたユードは度々酒の為に雑貨屋のバイトをしつつ呑んだくれの生活をしていた。


●○●


ある日、いつも通り呑んだくれていると酒場が騒がしくなった。


ユードは周りに話を聞いてみるとどうやら桃色の髪の少女のD級冒険者が病気の母がいる故郷に襲い来る獣群暴走スタンピードを止めるのを手伝ってほしいと言っているそうだ。

依頼を出そうにも金がなく、最悪自分の身体で払うと言って冒険者を集めているらしい。


何も感じなくなることは不可能なのではないかと最近思い始めてきたユードは気まぐれにそれを手伝うことにした。


◇◆◇


2日後、結局桃色の髪の少女、フィアの下に集まったのは何十年も戦闘をしていなく武器も雑貨屋で安売りされていた剣一本の自分とフィアの体目当てのA級冒険者ローリン、正義感溢れるパーティ『四花騎士』のルーゼリア、リーリ、リンドウ、フローラの女性剣士四人だ。


故郷までは馬車で1週間程度らしく獣群暴走が来るのが1ヶ月後だそう。ついてからの防衛の準備がぎりぎり出来るか出来ないかの期間の為、なるべく早い馬を四花騎士のお金で出してもらった。防衛出来るのか少し心配だ。


●○●


到着。

道中近道の為とても荒い道を早馬で移動していたせいか、リーリとフローラが乗り物酔いで何度も嘔吐して何度も荷台が汚れるという悲劇があったがその他は特に問題なく到着した。

ローリンがフィアを襲うのではないかと心配したが本人曰く、「俺は少女趣味だがルールは守る男だ。獣群暴走が終わって依頼達成されるまでは手はつけねぇよ」らしい。


○●○

次の日、四花騎士はリーリとフローラの介抱のためにしばらく動けないらしい。…使えないな。そのため、フィアとローリン、村の男達と共に防衛準備を始める事となった。


まず初めに貧相な木の柵で囲われている村の周囲に3Mほどの深さがある堀を掘った。

黄魔法土操作ダートコントロールを使用して大方の土を取っ払い、大人数で中に残った土や足場となる岩を取り去った。

次に貧相な柵を隙間のない木の壁に変えていった。所々に四角い穴を開けて弓や魔法が撃てるようにしている。ここまで1週間だ。予定日まで残り9日。余裕を持って後7日で出来る所までやりきる。


●○●

7日後。


動けるようになった四花騎士のおかげでさらに効率よく防衛準備ができた。フローラが魔法を使うことができ、村の周囲に赤魔法火炎地雷ファイアマインを敷くことができた。他にも住宅の周囲にトゲ柵を用意し、非戦闘員でも身を守れるようにトゲこん棒を全ての住宅に複数用意した。


そして次の日。獣群暴走がやってきた。


●○●


来たと分かった理由は複数ある。大量の獣達が同時に移動して地響きの様な後と小刻みに揺れる地面、仕掛けた火炎地雷が起爆する音等だ。


「獣群暴走だ!!来たぞ〜!!!」


北を担当していた見回りの男が大声で村中を叫び回る。


その声に反応し我々はすぐに北側へ向かった。


メンツを見てみるとリンドウが居ない。四花騎士のリーダーであるルーゼリアに聞いてみると「念の為に南側の警戒をさせている。たとえ一人だとしても我ら4人の中で唯一のA級冒険者の彼女ならば何も問題はないだろう。」だそうだ。


……A級か。身長も160cm程度しか無さそうで細身の黒髪の少女。あの娘が単独で準成体の竜を殺せるとは思えないが…なにか特別な技能等があるのだろう。人は見かけによらないというやつか。


我々は複数用意した見張り台に登り、弓を構えた。


見張り台からは小型から中型の獣が大量にこちらに向かってくる様子が見える。


「ちらほらと大型の獣も見えるな。大回転鎧ラールマジが3体に硬い茶熊ハードグリズが2体…マズイな…俺はブランクがあるから中型すら倒せるか怪しい。」


ルーゼリアはB級、リーリとフローラはC級。ローリンはA級だが大型の相手は3年前の昇格試験のとき以降やっていないらしいから怪しい。リンドウが来てくれればかなり余裕が出るのだが……呼んでくる暇はないな。もう火炎地雷が起爆する範囲に入っている。だいたい5分後には交戦開始だ。


「冒険者さん!西側からも群れが来やがった!」


村の男の一人が大焦りで伝えに来た。


「分かった。貴方はここで弓をやっていてくほしい。俺が行く」


「分かった。頼む!」


西側か…あっちにはたしか毒スライムの群衆地があったはず……うまいこと妨害してくれないだろうか…。

くそっ…戦術を考えるのはフルエがやっていたから苦手だ。北側はルーゼリアが指揮を執るから良いとして、西側は俺が執るしかない。経験で埋めるしかないか…。


○●○


1時間後。


北側はルーゼリア率いる村人軍が小型獣を倒し、中型獣は四花騎士の3人が。大型獣はなんとローリンが全て倒したらしい。…A級冒険者は凄いな。


対して西側は獣の数は少ないが中型が多くかなり苦戦している。北側はまだまだ残党が残っている為援護に来るには時間がかかる為、西側に来た少ない人数で対処を続けるしかなかった。


「「「うおおおおおおお!!!」」」


木の板で簡易的な防具を作った村人軍はトゲこん棒を振り回し、大兎ラージラビット劣亜人レッサーデミンといった小型獣の頭を粉砕し、俺は中型獣の相手を延々と続けている。


「クルゥア!クルゥア!」


「はぁぁあ!!」


蛇尾鶏コカトリスが飛び掛かってくる。右ひざの力を抜き崩れ落ちることでそれを避け、膝をつく。すぐに足の向きを蛇尾鶏側に向けて地面を蹴る。

剣に炎纏を使用して威力を上げ、足の付根を振り上げで切り裂き、蛇尾鶏の体勢を崩し、すかさず右手を剣から離し緑魔法硬木棘チクサイルを使用して胴体に突き刺す。蛇尾鶏はそれにより地面に倒れもがき始めるがすぐに駆け寄り突き刺さった硬木棘を踏みつけ胴体を貫通させた後、首を切り落としとどめを刺す。


「よし。体が思い出してきたな」


だんだんと昔の動きが出来るようになってきているのを実感しつつ、周囲を見渡し次の目標を見つける。


「大回転鎧か…剣で行けるか怪しいな」


周囲を見渡す。あった。死んでしまった村人の近くにあるトゲこん棒を拾い大回転鎧に向かって走り出す。


「おおおおお!!!火球!!」


左手を向け火球を放つ。大回転鎧に直撃したが効果は薄い、しかしこちらに向き直った。十分だ。


さらに足を速め、腰から剣を抜き胸元で構え突きの姿勢となる。大回転鎧は丸まりこちらに突進を仕掛けてくる。

それを見て、すぐに突きの姿勢を解きその場で腰を深く落とし、こん棒で打ち返す反撃の構えに移行する。


風纏ウィンドラップ二重衝ダブルストライク


緑魔法を2重でこん棒に掛けて準備完了とする。


3秒後、左斜め下から打ち上げるようにこん棒を目の前に来た大回転鎧に打ちつける。


ドンッ!ドンッ!


風纏の効果で素早く動くこん棒による一撃を二重衝の効果で2度の衝撃を大回転鎧に与えた。大回転鎧の強靭な甲殻は砕け、トゲが柔らかく皮膚に突き刺さる。大回転鎧は内部まで浸透してきた衝撃によりおそらく内臓がいくつか潰れたのだろう、一度大きくビクリと体を震えさせてから丸めた体を解き地面に伸び伏した。口からは吐血をし鋭い爪のある両腕は痙攣している。


「二重衝。過重衝ヘビィストライク。トドメだ」


二重衝と黄魔法過重衝を使い、先ほどと比較にならないほどの威力の振り下ろし攻撃を砕けた所から心臓の位置に向けて打ちつけた。


「ピャーー!!!」


大回転鎧はガラガラと口腔の血を鳴らしながら甲高い鳴き声を出しながら息絶えた。


「まだ終わらない…」


●○●


1時間後。


西側の獣群暴走は収まった。村人達に後片付けを任せて、俺は北側に向かっていった。

道中、剣を捨て新しいトゲこん棒を拾って行った。


北側に着くと戦いはリンドウが参戦した事で収まりに近づいていた。


「うおおおお!!」


また一匹、大兎が村人に殺される。その間にリンドウが十体以上の大兎と劣新亜人、五体の蛇尾鶏を殺して行く。


アレが現役で大型獣を討伐しているA級冒険者……圧倒的だ。


リンドウは刀と呼ばれる剣を使い、舞うようにそして的確に獣達の首を切り落としていく。


「…いけないいけない」


思わず見とれてしまうほどに美しい戦闘技術に呆けていたが気を取り直し、トゲこん棒を構えて獣を倒していく。


○●○

しばらくして、残った小型獣達が村とは違う方向へ逃げていき、獣群暴走は終わった。そしてどこで戦っていたのか分からないが、血と泥に塗れたフィアがやってきた。


「皆さん!ありがとうございました!!」


「終わった〜〜」


それを聞きフローラが疲れたと叫ぶように終わったと言った。


「皆は先に帰ってて。私は最終確認をしてくる」


「俺も行くよ。手分けをしたほうがはやいだろう」


「そうだね。おねがい」


リンドウに手伝う旨を伝え二手に分かれて残党がいないか、殺しきれていない獣がいないかを確認して回った。


○●○

確認は2時間程度で終わり、リンドウと共に村に戻った。


村内の被害はないようで、棘柵の片付けや戻った頃には死んだ村人たちの葬式の準備も終わり、我々の準備待ちのようだった。


水浴び場を場所を教えられ、終えたら葬式に参加してほしい旨を伝えられたため、着替えを持ち急ぎ気味に水浴びを始めた。


汚れた体を拭っているとリンドウがやって来て、服のような装備を脱ぎ始めた。


甲冑部分から脱いでいき、布部分を脱ぐと戦士とは思えないほどに綺麗な白肌とその下にしっかりと存在を感じる端正な筋肉、そして少し膨らんだ白肌の丘と綺麗なピンクの乳頭が現れた。


「…なに?」


思わず美しい体に見惚れていると、不思議そうな声色で話しかけられた。


「あぁ、すまない。あまりに美しい身体だったもので見惚れていた。」


「そう。ありがとう」


リンドウは短く感謝を述べると全く気にならない言っているかのように、身体を拭い始めた。


俺も自身の身体を拭いつつあまり見ないようにして質問をなげかける。


「少し質問良いか?」


「なに?」


「女冒険者は冒険中では気にしていない人は多い、だがそれ以外では人前で、特に男の前では裸になる事を避ける者がほとんどだ。気にならないのか?」


「気にしてどうするの?」


「どうするって…」


「私を襲おうとしたら殺せばいい。興味のない相手に見られるだけなら何も感じない。だから、男の前、人前で裸になろうと気にする意味はない。私に影響はないから」


「そ、そう…か」


合理的思考…?いや、強者の余裕というやつか。彼女にとって俺は道端の蟻同然の存在、裸でも一方的に殺せる程度の存在なのだろう。


少し屈辱的な気分を感じなくないが、そのような余裕を持てるほどの実力を有していることが羨ましい。久しぶりに嫉妬という感情を思い出した。


俺は拭い終えた後、着替えてから布を洗い水浴び場の端の方に干して、葬式場向かった。


リンドウが来た後、葬式が始まり30分程度で終え、弔いの宴兼勝利の宴が始まった。


○●○

ローリンやフィア、四花騎士達と呑んでいるとローリンとフィアが離れていき、四花騎士達と呑むことになった。


「あの二人、どこ行くのかしらね〜」


いい感じに酔っ払ったルーゼリアが言う。


「確かに〜」


「どこいったんだろうねぇ〜」


同じくいい感じに酔っ払ったリーリとフローラが疑問を吐く。


「……むぐむぐ」


リンドウはコイツラ聞いてなかったのかと言う雰囲気を漂わせつつ、焼き鳥と酒美味しいという感情を醸し夢中で飲み食いしている。


「どこに…行ったんだろうな」


テキトウにはぐらかして酒を飲む。


うまい


しばらくして尿意を催し、トイレに向かう途中、1つの住宅の横を通ったとき微かに声が聞こえてきた。興味本位で聞き耳を立ててみる。


「……ぁ♡…ぁん♡………いました♡…ンさん♡…ったです♡」


「…んだよ……ねぇよ……てだしな…」


「……もです♡……ださい♡……さんの♡……みます♡」


「……やるよ!………めオラぁ!」


おそらくフィアとローリンの声だろう。ローリンは約束通り報酬を頂いているようだ。邪魔をしては悪い、トイレを済ませて戻ろう。


●○●

宴は遅くまで続き、終わる頃には月が西の空に傾いていた。


「大丈夫?」


「おぇ…おぇぇ…」


端っこでリンドウに背中をさすられてリーリが吐いている。若いからな、飲みすぎたのだろう。


ルーゼリアとフローラは村人達と共に片付けをしている。フィアとローリンは……多分まだヤッていそうだ。


俺も椅子を持ち上げ片付けに参加する。


○●○


片付けを終え、滞在宿に帰る途中にリーリが吐いていたところを通ると今度は立場が逆になっていた。


「……っげぼ…ごぽぽ」


「ごめんねぇ〜ごめんねぇ〜私のせいで〜」


……明日帰る前に酔い止めを作って四花騎士達に渡しておこう、行きよりも酷いことになりそうだ。


●○●

次の日の昼、昼食をご馳走になった後フィア、ローリン、四花騎士たちと共に早馬の馬車に乗り来た道よりも整った道で街へ帰っていった。


帰宅はじめから3日目の昼、酔い止めのおかげか道がきれいなおかげか、乗り物酔いで嘔吐する物はでなかった。


「休憩にしましょう。各自、用を済ませてからここに戻ってきてください。30分後に出発します」


運転手にそう言われた一同は男女で別の方向の林へ消えていき、10分程度で再び戻ってきた。


一時的に揺れない床に安心感を得つつオヤツ用に木の実を集めておく。


各自休憩をしていると突然、恐ろしい鳴き声が聞こえてきた。


「グゥルアアアアアアア!!!!!!」


「な、なんだ!?」


「うおお!落ち着け!落ち着け!」


ローリンは咄嗟に剣を抜き戦闘態勢に、馬は本能で恐怖を感じたのか暴れ出し運転手は必死に落ち着かせている。


四花騎士も馬車を囲むように臨戦態勢に入り、俺もトゲこん棒を構える。


警戒状態だったフィアが空を見ると叫んだ。


「ドラゴンです!!!ワイバーンじゃない!!ドラゴンです!!」


それを聞いた全員はすぐに上空を向いた。そこで目に映ったものは、金の2角に緑のうろこに包まれ、強靭な四肢と巨大な大翼を持つ爬虫類だった。


ドラゴンは馬車を砕きながら着地し、ジャブと言わんばかりに運転手と馬を爪で引き裂き殺した。


着地したことで分かったことがある。このドラゴン……成体である。成体のドラゴンは準成体の一段階上の成長具合なのだが、この成体一番強いのだ。準成体と成体の違いは圧倒的で、準成体はA級が単独でのに対し、成体はA級が5人いても。それほどまでに強いのだ成体は。


「皆!!ここが死地だ!!!全力で抗え!!」


「「「「はい(おう)!!」」」」」


ルーゼリアがそう言うと全員で返事をして気合を入れて成体のドラゴンとの戦いが始まった。


そこからは一方的であった。


ルーゼリア指揮の元、ローリン、リンドウ中心の戦闘を行ったが、はじめに爪でリーリが裂き殺され、尾の薙ぎ払いでフローラとルーゼリアが全身の骨と内臓を潰され殺され、ヤケになったフィアが突っ込んでいき、上半身を食い千切られ殺される。俺とローリンの挟み撃ちで注意を引き、リンドウが足の腱を切ろうとしたが、空に飛ばれ上空から周囲半径30mの範囲を火炎ブレスで火の海にされ皆殺しにされた。


俺は全身やけどと肺が焼かれ朦朧とした意識の中、そこから離れていき逃げることが出来た。しかし途中で山に入ってしまったらしく遭難。その日の夜に川で水を飲んでいる最中に後ろから猪に突進を受け川にダイブ、受け身が取れず首の骨が折れて気絶し流されていった。


●○●


……ここはどこだ?


明かりはある。人工的な配置の光だ。周囲を見ると見慣れた石レンガで出来た床と壁。


あぁ……どうやら迷宮に迷い込んだらしい。


俺はまた迷宮攻略をしなければならないようだ。


ここからただ生き残るだけの新たな冒険が始まった。

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