勇者うっしーの大冒険

真坂 ゆうき 

第1話

「よく来た! 勇者うっしーよ!」


「いや待て、俺はそんな名前じゃねえ、牛尾 大輔ってんだ! 人違いじゃねえのかおっさん」


「儂はおっさんではない! 国民の3割もの支持を集め王の座に就いている者じゃ」


「3割ってどこの国家の支持率だよ、つーか残りの7割は反対してんのか? 随分と信用の薄い王様だな」


「お前さんの人生ほどじゃないがな。ちなみに残りの7割は反対ではない、そもそも興味無しだ」


「それはいろんな意味でこの国の将来がヤバいんじゃないか、もうちっとまともな国の運営しろよ」


「中々言ってくれるな勇者うっしーよ。しかしそなたの非リア充人生は、このB5判1枚の紙切れに全て書ききれるほど薄いのじゃよ」


「え? 俺の人生、たったこれだけ……というか待て、誰が非リア充のヒキニートだ! 勇者どこ行った⁈」


「儂は非リア充だと言っただけでニートとは一言も言っとらんが、ん? ん?」


「あ、畜生嵌められた! ……にしてもここはどこなんだ」


「今頃気づくのか鈍感な奴よのう。まあ良い、お前は道を歩いていたところ」


「人の話聞けよ! そもそも俺はニートじゃねえ、由緒正しき引きこもりだ!」


「意味分かんねーよ。由緒正しければ何でも許されると思っているのか貴様」


「あ、すみませんテヘペロ。つかあんたもさっき由緒正しきとか言ってなかったか」


「とにかく、お前はこんびに?なるものに飯を買いに行くために仕方なく道を歩いていたところ……」


「おい話を逸らすな。そして何でそんな事細かく俺の行動が分かるんだ。

 アレか、ひょっとして俺のファンか? それともストーカーか?」


「お前なんぞをつけ回したところで人生のムダだとは思わんかの、ん? ともかくそうして道路を歩いていたお前は」


「え、何で俺こんなディスられてんの? ……ん、ひょっとして……これはもしかして今流行りの、トラックにひかれて異世界転移って奴か! 万歳!」


「モデル歩きをしてきた牛に踏みつぶされてこの世界に飛ばされてきたのだ」


「もうわけわっかんねーよ!!」


「だからおまえの名前はうっしー108号になったのだ」


「108号って何だよ! いつの間にか増えてんじゃねえか!」


「今まで数多の勇者うっしーが魔王を倒さんと旅立っていったのじゃが……」


「聞けよ人の話。そして村人Aみたいなノリで言うのは止めろ」


「そこの火の輪をくぐることが出来ずに焼けてしまったのじゃ」


「何で旅立つ前にトラップ置いてんだよこのクソ王ぉぉ! 普通は餞別とか金よこすだろうがぁああ」


「ちなみに儂はウェルダンが好みじゃ」


「俺はレアが好きなんだが……って、仲間は? せめて武器はもらえないのかよ」


「武器はこの古代から我が王家に伝わる杖を特別に、餞別でくれてやろう。


 普通は35,000円するところをなんとお値打ち価格、10,000円で」


「オイ。どう見てもコレ、そこら辺で拾ってきた木の枝にしか見えねーぞ。で、何で通販番組みたいになってるんだ。餞別って普通タダでくれるもんだろう」


「我が城の敷地に昔から生えている樹じゃからな、とても貴重なモノなのだぞ」


「典型的サギじゃねーか。つか只の枝っていうのは認めるんだなこの野郎」


「仲間は……人材を常日頃から募集しているのじゃが中々集まらなんでのう」


「……ちなみに条件は?」


「年中無休、交通費自腹、死亡手当無し」


「ブラック企業どころの騒ぎじゃねーなソレ」


「世界の役に立てるって考えたらとてもやりがいのある仕事だと思うのだがのう」


「出たよやりがい搾取。あぁもうじゃ、そこに突っ立っている兵士一人くらいよこしやがれ」


「すみません勇者様、私はここを一歩でも動くと死ぬ病にかかっておりまして」


「……あぁそうかい。じゃその立派な装備一式でも慰謝料代わりによこしやがれ」


「お主勇者じゃなくてアタリヤの類じゃないかのう」


「やかましい、こちとら生死がかかってるんだよ!」


「装備を差し上げるのは構いませんが、実はこれ、全て紙の張りぼてでして」


「この国どんだけ金ねえんだよ! つか寒いって思ってたら、窓とかも全部そうなのかよ! ……あーもう良い、こんなところにいたらどうかなっちまうわ! 俺は逃げるぞ!」


「知らなかったのか? 王様からは逃げられない」


「逃げれるわボケェ!!」


「……お、王様! 勇者様がバルコニーから見事な後方宙返りを見せながら湖のほうに! じ、10点! 満点です! お、泳ぎも凄まじい早さです、このままだと逃げられてしまいますよ!」


「あぁ、アレは色こそ水っぽく見えるが実はマグマなんじゃよ」


「あ、溶けた」


「うーむ。うっしー108号も散ってしまったか……もうこの国を救う勇者は現れてくれんのかのう」


「そ、そういえば王様!」


「何じゃ」


「今年は丑年ではありません! 辰年でございます!」


「なん……だと……そうか、召喚する対象をそもそも間違っていたというわけじゃな儂ってばうっかりさん☆ よし、魔法陣を作り直すとしよう!」



「王様、今日はもう辰年ではなく蛇年なのでございますが……まあ竜のほうが強そうだし、もうどうでもいいか」


 その後召喚された者がどうなったか、この国がどうなったかは誰も知らない―—

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者うっしーの大冒険 真坂 ゆうき  @yki_lily

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画