第5話 森林の大精霊


暫く道なき道を進んで行くとミカが止まる。


「隠れても無駄だよ。ごめんね。」


次の瞬間周囲の木々に足が生えたかのように動き出す。ミカから魔力はまだ出ていない。

しかし、ミカの身体が夜間光るきのこの様に若干発光していて、この暗闇の中だと自然と目を奪われる。


「こんばんはクマさん。」


木々の影に隠れていたのはブラッティーベアーと呼ばれる生きる災害。一見するとただの赤毛の熊であるが赤毛になる過程が壮絶で、大量の生命を殺しその魂をも喰らい続ける事で魔獣化した獣。人に牙を向くこともあるため見つけたら速攻で殺さなければならない。ただ、その赤毛に保証されているようにその凶暴さと強さはただの熊とは比べ物にならない。


「私が…。」


私が剣を抜こうと剣の持ち手に手を置いたその瞬間、地面から木の根がまるで意志を持っているかのように動き出し、あっという間にブラッティーベアーを捕らえていた。


「ごめんねクマさん。貴方もこうなりたくてなった訳じゃないと思うけど、貴方がいると森の生命が皆無くなってしまうの。異端を排除すべきとは言わないけど、皆食い殺してしまうと言うのなら排除せざるおえない。」


優しい微笑みを浮かべながら何かをちぎり取るとそれをブラッティーベアーにかける。


「…何をしてるの?」


私の疑問の答えは直ぐに分かった。

何かをかけられて数秒もしない内にブラッティーベアーは悲鳴のような断末魔のような声を上げると同時に口の中から植物のようなモノが飛び出てきて、ブラッティーベアーを養分にぐんぐんと成長していく。低木程度の高さまで伸びると小さな美しい花が咲いた。


「綺麗…。」


「こりゃ、温和だなんだと言われても精霊は精霊ですな…。」


咲いた花は一瞬にして枯れ、一つの小さな種を落とす。

それをミカが受け止め、既にこときれている死体を優しく愛おしそうに撫でる。


「命は巡る。きっと貴方にも次がある。次は皆を食い殺すとかしちゃダメだよ?何事も限度ってモノがあるんだから。バイバイ。」


次の瞬間熊の死体を根が突き破り、残り滓の骨肉が辺りに広がり地面の中へと吸い込まれる様に消えていく。


「完全犯罪やり放題ですなー。うーむ、商人としてはこの技能、是非欲しい所です。」


などとガナッシュは呑気な事を言っているが、一歩間違えれば私達があの熊の様に死ぬ可能性がある。日中はただのフワフワした可愛い生き物としか思わなかったが認識を改める必要がありそうだ。


「あっ!!」


発光が収まると同時にミカの身体から力が抜ける。慌てて、握っていた手を引き、引き止め、優しく抱き寄せる。静かに寝息を立てるミカを見て、私はなんとも言えない気分になった。

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