第3話 名前

「いやー、本当に助かりましたよお嬢さん。」


小太りのおじさんがニコニコと笑いながらコップに水を注ぐ。


「ここで会ったのも何かの縁、お困りの際は微力ながらも助太刀に参りますよ。命の恩は命で返すのが筋ってもんですから。」


そう言いながら懐から木の板?を取り出し手渡す。


「我がガナッシュ商会の連絡状みたいなものです。小さい商会ですが世界各地に展開してますんで、まぁ、何かの縁があったら立ち寄って下さいな。」


ガナッシュ?世界各地?一体絶対どう言う事なの?

どう反応するのが正解?


「えーと、ありがとうございます?」


困っていると眼帯の女の人が小太りおじさんの脇腹を肘で突いた。


「ぐぇ!!」


「おっさん、この子が困ってるだろ。てか、ここにケルベロスが出るなんて聞いてないんだけどどう言う事か説明早くしろ。」


おー、さっきと全然雰囲気がちがう。なんか容赦ない人だなぁ。


「そ、そんな事私に言われても野盗の情報なんぞ知り得ませんよ。ガナッシュ商会は小さな商会で、入ってくる情報も限られて…。ブェ!!」


「世界各地にある商会が小さい訳ねぇーだろ。世界中で商会と言えばで一番最初に出てくるレベルの知名度だぞ。しかもガナッシュ、お前会長だろ。情報知ってて黙ってたよな?」


うーん、気のせいかもしれないけど、小太りのおっさんの顔が少し恍惚としてる気がする。痛い思いして嬉しい訳ないしこれも大道芸か何かかな?


「や、やめてくだされ。あ、あー!!」


「喜んでんじゃえよクソジジィ!!」


なんか、ここまで来ると気持ち悪いなぁ。


「ジジイ凄い蔑みの目で見られてるぞ…。」


「どうやら腹芸は得意ではなさそうですな。お名前お聞きしても?」


ガシガシやられながら普通に話しかけてきたんだけど、色々変わった人だなぁ。


「僕に名前なんてないよ?」


「「え?」」


そもそも僕は両親の顔も名前も見た事ないし、耳聞こえてなかったから医者が僕の名前を口にしててもわからない。


「大精霊クラスになると自然と名乗り出すモノだと思っておりました。なるほどなるほど、そうではないと。くぅー、これは大きな金が動く情報ですよ。」


すっごい悪い笑み浮かべてる…。


「んー、じゃあ僕にお姉ちゃんが名前つけてよ。今日からそれを名乗る事にするー。」


あのおじさんはなんか絶妙に気持ち悪いし…。


「わ、私にです!?」


「うん、適当でいいよ。」


「こんな適当な感じに決まるモノだと知ったら魔導士共は皆泡吹いて倒れるでしょうねぇ。」


眼帯の人は少し悩んでから口を開く。


「“ミカ”でどうかしら?」


「じゃあそれで。今日から僕はミカって名乗るねー。」


「本当に適当に決まりましたね…。」


おじさんが少し呆れてるような気もするけど、名前なんて所詮識別番号でしょ?

自分で決めるのは変だし、誰かに決めてもらうのってそんなに変かなぁ?


「ところでお姉ちゃんの名前は?」


「あ、あぁ、そう言えば名乗ってなかったな。私はマイカと言う。」


「よろしくねマイカお姉ちゃん!」


「あ、あぁ。」


なんか顔赤いけどどうしたんだろ?


「あっしには聞いてくれないんでしょうかね。」


「おじさんはおじさんじゃ無いの?」


「くぅー、この子も辛辣!!こりゃ、堪らん!!」


こっちもこっちで顔赤らめてるけど気持ち悪いなぁ。なんでこんなにも感じ方が違うんだろ?不思議ー。


「ま、まぁ。あっしは勝手に名乗らせていただきやすが、ガナッシュ商会会長のガナッシュって者でやす。」


「よろしくねー。おじさん。」


あ、おじさんが茂みの方に走って行った。

何かあるのかな?

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