第19話 対策会議

 ユートラス王国の王城内、その会議室にて。

 ゼーレ達の昇格依頼と時を同じくして、この場所には多くの人々が出入りしていた。


 部屋の中心に置かれた大きな円卓。

 二十席あるうちの四つが埋まっており、彼らはただ黙して時を待っている。

 静寂に包まれた部屋。

 しかしそれはすぐに破られた。


 会議室に一人の男がやってきた。

 若さを感じる外見ではあるが、纏う風格は本物。

 先に着席していた四名がそれぞれの表情を浮かべて、彼を目で追う。


 ある者は畏怖。

 ある者は敬意。

 ある者は享楽。

 ある者は敵意。


 四者四様の思いを胸に、彼らは男が席に着くのを待った。


「ここに集まってもらったのは他でもない。宝護の竜骸ファフニールが何者かに操られ、この国へと向かっている」


 男が口火を切る。

 彼の名はライル・ユートラス。若くして王位を継承し、心優しい性格と聡明な頭脳の持ち主として国民からの支持は厚く、これからの活躍に期待が集まる時期であった。


 そんな重要な時期に飛び込んできたのは、宝護の竜骸ファフニールが何者かによって盗み出されたという報せ。

 かつて存在したと言われる竜の存在を証明する亡骸。人間領と魔族領の境界にある"狭間の森"で発見され、それが抱きかかえている数多くの財宝と共にユートラスが管理、保護を行ってきたのである。


「んーっと、早くてあと四日で王都に到着しそうっすねぇ。まあ、その前に西町とか北町辺りが襲われるでしょうけど」


 会議が始まってすぐ、輝かしい雰囲気を持つ青年が口を開く。

 ユートラスの主要人物が集まるこの場で、その軽い物言いは目立っていた。

 しかしそれを嗜めるような人間もいない。


 何故ならば、彼こそがファフニールの情報をいち早く掴んだ人物だったからである。

 ユートラス国内にて秘密警察を率いる王の伝令、セリス・ウェンデッダ。

 彼の持つ神片は『流転の神片ヘルメス・フラグメント』。セリスはその権能の一つである"天翔ける朱鷺アイビス"を使い、狭間の森全域を常に監視していた。故に、そこで起きた異変を素早く察知する事ができたのだ。


「……にしても犯人、かなりの情報通みたいっすね。事を起こす前に阻害魔術で天翔ける朱鷺アイビスを無効化してるっぽいんで。それのせいで、肝心の犯人の素性はまだ掴めてないっす」


 何故か楽しそうに、芳しくない状況を語るセリス。


「……竜墓の結界も破られていたということだな?」

「そりゃもちろん、バッキバキにぶっ壊されてたっす。ええっと、あれ。竜墓とかはもうどうでもいいんすけど、竜骸の撒き散らしてる瘴気がかなりヤバい感じっすね。たぶん三位一体時代からのやつなんで、どこまで影響出るかマジで分かんないっす」


 セリスの返答にライルは渋い顔をする。


「そうだな……。あの竜骸は私が生まれるずっと前からユートラスが管理してきたものだ。それに竜墓の結界の作成には、かの魔術王の助力があったと聞く」

「そりゃ最悪っすね。あの瘴気抑え込むにはソロモンレベルじゃなきゃ無理って訳すか」


 快活に笑うセリス。


「俺に任せろ! 王よ、俺に竜を倒せと命じてくれ!」


 筋骨隆々な男が突然いきり立つ。

 不敬にもそんな発言をしたのは、ユートラス王国軍の軍隊長ガルロ・リタード。彼の実力は折り紙付きだが、いかんせん頭の方がよろしくない。

 それ故、あまり会議などには呼ばれないのだが、今回ばかりは仕方なかった。国の防衛に関わる重要な会議。軍隊長である彼も呼ばざるを得なかったのだ。


「ガルロ、あなたは黙っていてください。あなたが活躍できるのは戦場だけなんですから」


 ガルロの隣に座っていた女性が辛辣な言葉を放つ。

 眼鏡を掛けた彼女の名はフィード・エンシュリラ。王国軍の参謀であるフィードは、戦闘狂なガルロのお目付け役も担っていた。


「なんだと……? お前はいつも戦場の最後方に引きこもっているだけだろう?」

「誰かさんが勝手に最前線へ行ってしまうので、そうせざるを得ないだけですが?」


 両者の間に緊張が走る。

 そんな中、セリスが口を挟む。


「お二人さんさあ、そんな言い争いしてる場合じゃないっす。てか、サクゴさん、流石に今回のは組合も力貸してくれるっすよね?」


 セリスは黒髪の男に尋ねた。

 男は組んでいた腕をほどき、セリスの目を真っすぐに見つめ返す。


「もちろん、協力する事には何の意見もありません。考えるべきは、報酬についてです」


 言って、男はライルへと視線を移した。

 彼の名はサクゴ。冒険者組合の長、グランドマスターの役職を拝する人物で、ライルとは魔術学園時代からの友人である。


「報酬についてはそちらの提示額を呑む。こちらが聞きたいのはどこまで戦力を回せるかだ」

「そうですね……、西町と北町にいる上級冒険者は全員向かわせましょう」

「上級だけだと!? 霊幇級以上を出さずに報酬の話をするとはいい度胸だな?」


 ライルとサクゴの間に割り込むガルロ。

 別に彼とて会議を妨害しようとしている訳ではない。

 むしろ誰よりもやる気だけはあるのだ。


「お言葉ですが、上級の冒険者たちの戦闘能力はとても高い。無駄に数だけ多い軍の兵士達よりも遥かに」

「なんだと貴様……!」


 新たな争いの芽が生まれる。


「……と言っても、霊幇級以上が一人もいないというのは組合としても流石に不誠実です」


 サクゴが不敵な笑みを浮かべる。

 彼の笑みは、得も言われぬ攻撃性を孕んでいて。

 ガルロもそれを見て口を噤んだ。


「東町の霊幇級冒険者、"不死身"のアレク・サンドローザを呼んでいます。彼がいれば、たとえ勝つことはできずとも負けることは絶対にありません」


 サクゴの言葉に、他の四名は驚きの表情を見せる。


「へぇ、不死身が来るんすねぇ。こういう面倒事は引き受けないタイプかと思ってたっす」

「東町のギルドマスターはバルファでしょう。あのサンドローザでも彼女からの命令は断れないでしょう」


 彼らからしても、アレク・サンドローザという名前には聞き覚えがあった。

 その出自が故に、彼がなぜ冒険者などという危険な職に就いているのかと疑問に思っているのだ。


「彼が来てくれるのなら心強いな」


 ライルが静かに頷く。

 軍隊長であるガルロが戦地に赴き、軍の指揮はフィードが取る。それに上級以上の冒険者、霊幇級のアレクという強力な援軍も確保できた。今用意できる戦力としては最高であるはずだ。


「よし。ではガルロとフィードは直ちに北西部へと向かえ。軍の動きは全て君達に任せよう。セリスはこれまで通りの任務と共に、ファフニールの監視を。何か異変があればすぐに伝えてくれ」


 そして、ライルはサクゴへと視線を注ぐ。


「いざとなれば、お前にも出てもらうからな」

「ふふっ、もちろんだとも。冒険者組合の統括者として、やれるだけの事はしよう」


 こうして、各々が竜骸を迎え撃つ準備を始める。


「会議は以上だ。皆、この国を守るため全力を尽くせ!」


 ライルのよく通る声で、会議は閉じられた。




――――――――――




「おいバルファ、話が違ぇぞ!」


 依頼達成の報告をした翌日。

 バルファさんからの呼び出しを受けた僕達は、朝早くから東町ギルドへと赴いてた。

 するとそこで聞こえてきたのはアレクの怒鳴り声。

 朝から元気なことだと思いながら、ギルドマスター室へと入る。


「おはようございます、バルファさん」

「あ! おはよう、ゼーレくん」


 部屋にいたのはバルファさんとアレク。

 アレクが今にも掴み掛からん勢いで、バルファさんへと詰め寄っている。


「ほら、ゼーレくん達も来たし離れてよ。いくら私が大好きだからって、こんな朝からは困るよ」

「きっ……気持ち悪ぃこと言うな、ボケが!」


 悪態を吐き、即座にバルファさんから離れるアレク。

 そしてそのまま雑にソファへと寝転ぶ。


「それで、朝から何の騒ぎですか?」


 僕が尋ねると、バルファさんは意地悪く微笑み。


「いやぁ、大したことじゃないよ。今回の竜退治、アレクにも行ってもらいたいってお願いしただけさ」

「チッ、何がお願いだ。お前の場合強制だろうが」

「別に断っても良かったのに。まあ断られたら『掟の神片テミス・フラグメント』を使うだけなんだけど」

「じゃあ、意味ねえだろうが!」


 とげとげしい視線をバルファさんへと向けるアレク。

 アレクとのファーストインプレッションは最悪だが、バルファさんが絡むと何だか不憫に思えてくる。


「って、そんなことはどうでもいいんだ」


 アレクの人権をそんなこと扱いして、バルファさんは僕達を見る。

 にっこりと、満面の笑みを浮かべるバルファさん。

 とても、嫌な予感がした。


「今回の竜退治、災害級もしくは天災級の依頼になりそうなんだ」


 ――予感は的中した。

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緋眼の魔術師 ~師匠が残してくれたのは、伝説の魔導書でした。~ 南雲虎之助 @Nagumo_Tora_62

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