第37話
「うわぁ…何これ、広すぎる…」
思わず漏れた驚嘆の声に悠人が苦笑したのがわかる。
そこに広がっていたのはまさしく豪華絢爛のパーティー会場だった。輝く装飾や多種多様なドレスたちが目に眩しい。
よくよく見れば、強面だったり体格が立派だったりするスーツ姿の男たちがあちこちに立っているため、普通のパーティーでないことは明らかなのだが。
だとしても、世間一般の価値観の中で育った私にとって縁の無かった場所であるのは事実だった。
「緊張なんてしなくていい。おまえは俺の女なんだから」
少し固くなっていた私に気づいたのか、悠人は耳元に寄せてそう言った。前々から思っていたことだが、悠人は随分と他人のことをよく見ている。些細な表情の変化や、普段とは違う行動であったり、そういうものをしっかりと把握しているのかもしれない。
「…緊張なんてしてないよ」
口から出たのは当然ながら強がりだ。そしてそれが強がりだと、悠人ももちろん気づいている。
「でも、堂々としてるのは無理だよ。私、案外繊細だから」
いつもなら言わないはずの言葉が自然と続いた。
自分で言ったくせに少し笑える。繊細だなんて、私には似合わないにも程があるだろう。
けれど悠人はそんなことは言わなかった。
「知ってる。俺は少し離れるけど、如月から離れんなよ。すぐ戻ってくるから」
「…はぁい」
目を細めて綺麗に微笑んだ悠人はやっぱり誰よりもかっこよかった。
そうして束の間私から離れた悠人は、次々と高そうな和服やスーツ、はたまたドレスに身を包んだ人々に話しかけられている。
中には胸元のばっくり開いた真紅のドレスを纏ったグラマラスな美女だとか、白地に金の牡丹をあしらった色留袖を上品に着こなした奥ゆかしそうな美女も居た。
彼女たちの共通点と言えば、高校生の小娘では足下にも及ばない美人だという点。それから悠人に好意があるのだろうという点だ。
彼女たちは遠目からであっても、頬を染めながら悠人に話しかけているのがわかる。当の悠人はそんなこと、まったく気にしてなさそうだったが。
なんて、そんな様子を離れた場所から傍観してる私は暇を持て余していたりする訳で、することといえば人間観察と飲食しかない。
「ねえ如月。トイレ行ってきていい?」
帯が苦しくなるかもしれないと心配し、美味しそうな食べ物を控える代わりに、がぶがぶと飲み物ばかり飲んでいたら、当然こうなる。
「うん。俺も前まで行くよ」
「……来ないでほしいな」
「そういう訳にはいかないから」
微笑んでやんわりと断られては二の句が継げない。
如月としては、私から離れるなと悠人からきつく言われているのだろうから、仕方のないことかもしれない。けれどトイレの前で待たれるというのは、正直に勘弁してほしいなと思う。
「さっと行ってさっと戻ってくるから、別にトイレの前まで来なくても…」
「だーめ。悠人さんに怒られるよ?」
「ぅ……」
如月は『悠人に怒られる』と言うと私に対して効果があることがわかっているらしい。仕方ないなとでも言いたげに出されたその言葉に、私はもう何も言えなかった。
悠人に怒られるのはとても避けたい。でもそれは悠人が恐いとかそういうことではなく(そもそも本気で怒られたことが無い)、絶対変なことをされるからである。
「…じゃあいいや。そこまで切迫した状況でもないから」
「そう?行きたくなったら言ってね」
うん。家に帰るまで我慢します。
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