第24話

「なんで膝に寝るの…?クッションあるからそれに…」

「却下。央華の膝じゃねえと癒されないだろ」


 速い。私の意見を却下するときの悠人の速さといったら、毎回こうだ。

 どうしてこんなに食い気味で来るのだろうか。


「…せめて着替えてからにして」

「あ?」

「そのスーツ、外の匂いが付いてる。あとこれ…この甘いの香水?混ざって変な匂いになってるから」


 悠人の頭を押し退けながら、眉を顰めて訴える。

 外気の匂いはどう説明したらいいのかわからないが、それに混ざった匂いが更に良くない。


「何、おまえ鼻効くの?」


 少し驚いたかと思えば、無邪気に笑い、そんなことを訊かれた。


 動物じゃあるまいし、多少嗅覚が敏感であっても人間の範囲内に決まっている。


「まあ、悪くはないと思うけど。香水系の匂いは頭痛くなるものが多いから、昔からあんまり好きじゃない」

「へえ」

「あと、家の中で外の匂いがするのって嫌じゃない?」

「外の匂いって、あんま気にしたことねえな」


 そのやり取りの何がツボに入ったのかはまったくわからないが、今度こそ悠人は声をあげて笑い出して、ようやく私の膝から頭をあげた。


 そのまま立ち上がって私を見下ろしたかと思えば、今度はわざとらしく視線を下から上へと這わせていく。


「…なに?」

「いや?せっかく央華がエロい恰好してんだからな。さっさと飯食って、お仕置きといきますか」


 妙に満足気に、そして心底愉しそうに笑いながら、頭を軽く撫でられる。


 そして嫌な予感しかしない言葉を残して、悠人はキッチンへ向かっていった。その向けられた背中すらもすこぶる機嫌が良さそうで、それがまた少し恐い。


「え、えろ?」


 一瞬、何を言われたのか理解が追いつかなかったのだが、ちゃんと考えてみてもわからない。


「ん、気づいてないのか?」

「…何に」

「それ俺の服だろ。サイズ合ってないから裾と袖は余ってて隠れてるけど襟ぐりはガバガバだぞ。上から見りゃ見えるに決まってんだろ」


 慣れたように夕食の食材を用意しながら、それでも私の声をしっかり拾ってくれたらしい悠人が答える。


 私のこの格好を『エロい』と感じる感覚がわからない。子供体型に興奮するタイプの性的倒錯者ならいざ知らず、どう考えてもスタイル抜群の美女を侍らせてそうな悠人が。


 それに襟ぐりが大きいのは仕方がない。悠人の服なのだ、全体的にサイズが大きくて当たり前だ。


 そこまで考えて、ぴたりと動きを停止する


(……見えた?)


 確かに悠人はそう言った。襟ぐりが大きくて見えた。何が?


「…あ。ぁあ!み、見たの?」

「黒だな」

「っ…見たんだね?」

「見たんじゃなくて見えたんだよ」

「どっちにしろ同じこと…!」


 実家に居る時は下着を見られても問題は無かったので、家の中だからとついつい気が緩んでいた。そもそも実家ではブラ自体付けていないことが多かったが。


「最っっ低…!」


 ソファの背を叩きながら、とんでもない羞恥に襲われる。上手く言葉にはならないが、とにかく恥ずかしくてたまらない。


 どうにかそれを紛らわせようとしてバシバシとソファに八つ当たりを続けていると、キッチンで悠人がまた笑った。


「そんな当たんなよ。悪かったな」

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