足音のする部屋
一人暮らしを始めたばかりの健太は、古びたアパートの一室に引っ越してきた。家賃が安かったことと、交通の便が良かったことが決め手で、特に気にすることなくその部屋を選んだ。引っ越しも終わり、夜になって初めてその部屋でひとりの時間を過ごしていると、健太はすぐに何かがおかしいことに気づいた。
夜が深くなると、部屋の中に不気味な静けさが広がり、健太は普段の生活では感じないような不安感を覚えた。とりわけ、寝室で寝ているときに感じる違和感が強かった。
「足音…?」
健太は目を覚ますと、部屋の中で何かの足音が響いていることに気づいた。それは静かな夜の中で、まるで誰かが歩いているかのようにはっきりと聞こえた。最初は外の足音だと思ったが、部屋の中で音がしていることは確かだった。
その夜、健太は不安を感じながらも、足音が気になるものの、そのまま眠りについた。しかし、次の日もまた、同じような時間帯に足音が響いた。これが偶然だと思いたかったが、足音は日に日に鮮明になり、特に夜中の2時から3時にかけて強くなった。
「誰かがいるのか…?」
健太は次第に不安で眠れなくなり、ある晩、ついに勇気を出して足音の源を突き止めることに決めた。時計の針が午前2時を指した頃、健太は目を閉じずに耳を澄まし、足音がどこから聞こえてくるのかを追った。
足音は確かに、部屋の中を歩き回るような音だった。それがリビングから寝室へ、または廊下へと続いていく。そして、音が止まった瞬間、健太は恐る恐る立ち上がり、音の出所を調べるために部屋を歩き回った。
リビング、キッチン、廊下――どこを見ても、誰もいない。しかし、足音は確かに彼の周りに存在していた。足音がやがて、彼の部屋のドアの前で止まった。
その瞬間、ドアの隙間から冷たい風が吹き込んできた。健太は心臓が止まりそうなほど驚き、すぐにドアを開けようとしたが、手が震えてうまく動かない。
やがて勇気を振り絞ってドアを開けた瞬間、部屋の中に広がっていたのは、見知らぬ人物の足跡だった。床に、泥で汚れた足跡が続いており、それはドアを開けた瞬間、まるで誰かが部屋に入ってきたかのように明らかに存在していた。
「誰もいないはず…」
健太は恐怖に駆られながらも、その足跡を辿ってみることにした。その足跡は部屋の隅から始まり、ベッドの下、そしてクローゼットの中に続いていた。
健太がクローゼットを開けると、そこには何もなく、ただの空間が広がっていた。しかし、その瞬間、再び足音が部屋の隅から響き始めた。
「…まさか。」
健太は身震いしながらも、足音が聞こえる方向に目を向けた。そこには、誰かが立っているような影がぼんやりと見えた。見間違いだと思い、もう一度目をこすったが、影は確かに存在していた。
その影が次第に動き出し、健太に向かってゆっくりと近づいてきた。
「誰だ!? 誰なんだ!」健太は恐怖のあまり声をあげた。
だが、影は答えることなく、彼のすぐ前まで来て立ち止まった。そして、その影が消えると、足音もまた完全に消えた。
翌朝、健太が目を覚ましたとき、部屋は静まり返っていた。足音も影も、まるで夢だったかのように消えていた。しかし、床を見てみると、再び、昨夜と同じ泥で汚れた足跡が部屋中に広がっていた。
その足跡は、まるで健太を見守るかのように、彼の足元を囲んでいた。
その後、健太はそのアパートをすぐに引き払った。しかし、どこへ行っても、夜になると足音がついてきて、決して静かな夜を過ごすことはなかった。
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