第11話 たとえ傷付いていても
右目の骨が砕けた。意識が朦朧とする。
うつ伏せ状態で叩き付けられたスイレンが何とか体を起こすと、顔面から流れ出た血がべっとりと地面に付着しており糸を引いていた。
「スイレンちゃん!」
左の視界から慌てた様子でアミが駆け寄ってくる姿が見える。
右目は完全に潰れてしまった様だが、左は使える。
体も無事なのだ。まだ戦う事は出来る。
痛みはあったが耐えられないレベルではない。
スイレンはすぐにでも動き出そうとした。
しかし、アミはその姿を見て恐怖を覚えた様な反応をする。
それもその筈だ。
顔の右半分は砕けて目が破裂してしまっており、本来内にしまわれているべき肉と骨が露出している箇所がある。
また、それにより血もダラダラと流れており、見るに堪えない状態だ。
あまりにもグロテスクな状態に、誰であれ目を背けたくなり、耐性のない者は吐き気を催してしまう程だろう。
「大丈夫だよ。行こう。早くしないとアカリちゃんが間に合わなくなる」
「で……でも……!」
「大丈夫だって。右は見えないけど、それ以外は無事だから」
足元がおぼつかない。
どう見たって大丈夫という言葉からは程遠いだろう。
だが止まる訳にはいかない。
スイレンは左手に銃を構える。
「アミちゃん、預けた手榴弾もらってもいいかな」
「そ……そんな状態で戦うなんて無理だよ!私のハサミなら触手は斬れる。私がやるよ!」
アミは差し出された右手に、手榴弾ではなく言葉をぶつける。
いつ倒れたっておかしくない。
そんな状態のスイレンを戦わせる事なんて到底出来ない。
アミの切実な願いだった。
だがしかし、その願いは聞き入れられる事はない。
「アミちゃんまで失敗したらどうするんだ!二人とも倒れればそれこそ絶体絶命だ!触手を斬ってくれればアタシが入れ込む。だから渡して!」
耳をつんざく様な大声が空に響く。
スイレンの主張は分からなくもない。
だが、そうだとしてもまるでスイレンが犠牲になるかの様な物言いにアミは返事が出来なかった。
しかし今は一刻一秒を争う事態。
スイレンは無理矢理アミのポケットに手を突っ込むと手榴弾を奪っていく。
そしてそのまま蟲の元へと走っていく。
アミの呼び止める声は届かない。
アカリを救いたいという想いが、スイレンの行動を極端なものへと変えてしまっているのだ。
スイレンがシャボン玉に飛び乗ろうとした次の瞬間、スイレンの体は再度地面に伏してしまうのだった。
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