第11話 街中での衝撃的なワンシーン
土曜日。
いつも通りの私服ではなく、少し路線を変えた服にしようと思っていたのだが、やはり、クローゼットの中を確認しても代り映えのしない服ばかり。
「まあ、これでもいいか……」
斗真はしぶしぶと、いつもの外出用の服に着替え、準備を終わらせたのである。
「お兄ちゃん着替え終わった?」
「一応ね」
斗真は返答してから、部屋を出る。
扉を開けた部屋の前には、準備を終えた妹の
妹は外出用の服に着替えており、明るい感じの黄色をメインとしたコーデだった。
白色の長袖に黄色のロングスカートを身につけており、妹らしさを感じられるのだ。
ショートヘアな髪型はしっかりと手入れされていて、小柄な外見が相まってなおさら可愛らしかった。
「それで、お兄ちゃんの方はいつも通りって感じだね」
「それはね。クローゼットの中を探してみたんだけど。こういう風な服しか無くて」
「でも、今日は服を選びに行くんだし。そんなに気にしなくてもいいよ。私もちゃんと選ぶから。それと、神谷さんも来るんだよね?」
「そうだな。昨日も言ったと思うけど、あまり変な発言はしないようにな」
「わかってるよ」
妹は笑顔で返事を返してくれていた。
斗真と妹は自宅を後にすると、
街中のアーケード街近くには大きな広場がある。
その場所は待ち合わせの目印と良く使われることが多く、他の人らも誰かの約束としている為か、そこでスマホを片手に佇んでいる人がいた。
「お兄ちゃん、ここで待っていればいいんだよね」
「そうだね。昨日、涼葉さんに連絡した時、アーケード街前の広場ってやり取りをしていたから」
斗真はスマホを片手に、妹と広場の端の方に佇んでいる事にした。
斗真はスマホを弄りながら、昨日、涼葉とやり取りをした内容を確認する。
しっかりと広場に集まるという約束を交わしていた記録があったのだ。
待ち合わせの時刻は一一時。
スマホの画面に表示されている時刻は一〇時五〇分だった。
若干早く到着しすぎたのかもしれない。
「お兄ちゃん、どうだった?」
「少し早すぎたかもな。十一時集合って事にしていたから、後一〇分くらいしないと来ないと思うよ」
「そうなんだ。でも、待ち合わせ場所としては間違ってないんだよね」
「そこに関しては問題ないよ」
斗真は自信を持って頷く。
「恵美は最初どこに行く? デパートの服屋からでいい?」
涼葉がやってくるまでは時間がある。
暇だった事もあり、斗真は隣にいる妹に問いかけたのだ。
「私はそのつもりだよ。私たちの買い物が終わったら、今度は神谷さんが予定している場所に行くんだよね」
「そうだな。そういうスケジュールだったしな。まあ、服とかを選んでいると、昼を挟むだろうから、どこかで昼食を食べないとな」
斗真はスマホの時間を確認しながら言う。
「お兄ちゃんはどこがいいと思う?」
「俺はどこでもいいけど。今からデパートに行くなら、デパートの中の飲食店でもいいし。デパ地下とか?」
「それもいいね。久しぶりに、そこで食べたいかも。この頃、高校受験の勉強ばかりで全然いけていなかったから」
妹はワクワクした嬉しそうな笑みを浮かべていた。
デパートの地下にある飲食店は基本的に美味しいのだ。
恵美も昔からデパートの買い物帰りに母親と一緒に立ち寄っているらしい。
斗真は、たまに家族で街中に訪れた際に利用する程度だった。
たまにしか利用しない飲食店ではあったが、意外と味は舌で覚えているのだ。
毎回同じような料理しか注文しない事から、それが舌にしみ込んでいるのかもしれない。
「デパ地下に最後に行ったのはいつ頃だったっけ?」
「多分、去年の十二月? クリスマスになる一週間前だから、多分、冬休みに入る前だったかな?」
恵美は考えながら返答していた。
「じゃあ、半年近くも行ってないのか」
「そうなるね。でも、久しぶりにデパ地下に行けるなら、楽しみ。お兄ちゃんは何を注文する?」
「俺はいつも通りかな」
「えー、いつもの? いつも通りはよくないよ。もう少し変えた方がいいんじゃない?」
「そうかな……んー……そうかもな。いつもと同じだと、何の変わり映えしないしな」
斗真は、特に大きく人生が変わる事の無い日々を過ごしてきたのだ。
服装も大体似たような感じのを着て生活してきたのである。
妹と会話していて、今までのままではよくないと感じ、気持ちと行動パターンから変えていこうと思った。
「だったら、デパ地下に行ってから決めるよ。多分、メニューも少し変わっているだろうしね。恵美はどうするんだ?」
「私も、その時に決めようかなって」
「そうか。じゃあ、その時だな」
「うん」
二人はアーケード街近くの広場に隣同士で佇み、楽しくやり取りをしていた。
「アレ?」
隣にいる妹の恵美が、不思議そうな声を出していた。
妹の目線は遠くの方へ向けられてあったのだ。
「どうした?」
「あっちの方にいるのって、沙織さんじゃない?」
「え?」
斗真は遠くの方を見るように、恵美が指さす方へ視線を移した。
「確かに、沙織だな」
でも、なんでここに。
「それと、沙織さんって、誰かと一緒にいない?」
「……」
斗真は目を凝らしてみると、
遠目ではわからないが、スーツを着用した男性と一緒に並んで歩いているのだ。
そんな姿が、斗真の視線には映ってしまった。
「もしかしてだけど。沙織さんって。あの人と付き合ってるのかな?」
「……そうかもな」
斗真は急に現実を突きつけられ、困惑してしまう。
沙織が誰かと付き合っている事は、この前から幼馴染の口から直接聞いていた事だった。
それでも、実際に沙織が知らない男性と一緒にいるところを見てしまうと、心が苦しくなってくるのだ。
この感情はどうしたらいいものだろうか。
自分自身の心では消化できない事であり、斗真は頭を悩ませていたのだった。
「お兄ちゃん?」
「いや、なんでもないよ」
斗真は痛む心を紛らわすように首を横に振る。
これ以上は、沙織の方は見たくなかった。
だから、その場で俯きがちになってしまったのだ。
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